まだ自分の背中とか手とかに残るべたべたした汗がちょっと気になるけど、風邪ひきそうだしざっと洗い流したほうがいいのは分かっているのだけれど、目の前の身体にぴたりと吸い付くほうが先だ。相手のそれは気にならないから。

いずみくん、と耳をくすぐるように呼ばれた。部室に充満する人工的な制汗剤の臭いが邪魔だ。

いつも俺は背中ばかり見ている。ポジションに不満があるわけじゃないけれど。
練習中にさえ正面から三橋の顔を見られる阿部や田島が羨ましい。守っているのは背中側にいる自分なのに、なんて、ガキみたいなことを考えつく俺の脳味噌は重症だ。



どうしたの、と聞かれたので、なんでもないと答えた。おずおずと三橋の手が俺の背中にそえられる。耳の奥で心臓のはじける音が聞こえて、ああきっとこの音はくっついた胸から三橋にも伝わってしまっている。


よゆうなんてありません。いつでも。ひょうひょうとれいせいにみえるよう、いつもせいいっぱいがんばっています。たまにこうして、つらくなります。


抱きしめるとほとんど変わらない背丈が恨めしい。すっぽりと包みこめるくらいの余裕が欲しいのに。

目の前にある首筋を強く噛む。ちっとも甘くなんかない、少し辛い汗の味。ひゅ、と自分の耳をかすめる三橋の息が熱い。
たべちゃいたい、って、なんてすてきな表現なんだろう。


どうしたの、とまた聞かれたので、味見しただけだと答えた。小さく笑う気配を感じて、味見では済みそうになくなってしまう。暗い窓には朧な秋月。夜目はきくから大丈夫。


よゆうなんてありません。たまにこうしてつらくなるので、こっそりとほきゅうするんです。めから、みみから、くちから。


絡めた舌や吐息が何故か甘い。味なんてするはずがないのに。馬鹿になった味覚は単純な俺の憂鬱をいとも簡単に鎮めていく。


ひとつのものとひとつのものを足して、やっぱりひとつになるなんて有り得ない。1と1を足したら、答えは2だ。


よゆうのないままでもかまわない、そんなきがしてきました。はんぶんのきみとはんぶんのおれをあわせれば、きっかりひとつになります。そのほうがよほどきもちいい。


じわりと満ちる脳内麻薬の多幸感。
薄闇の中で反り返った三橋の背中が、白くてなめらかでとてもきれいだと思った。




潜むエンドルフィン















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拍手から再録。
090929〜0911xx

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