※注意
パラレルです。怪盗イズミハ、仕事前。とてつもなく夢見がちな設定なので、大丈夫!なかたのみスクロール。
















満月が端から欠けていく。

地上からならば、まるで月蝕のように見えたことだろう。
光々と満ちる月を半ば覆い隠した黒い気球が、サーチライトを躱してふわふわと軽やかに闇を滑る。


「警察が、集まってるよ」


古びた建物の上空にその気球は浮かんでいた。
内側にはふたつの人影。
そのうち、気球の縁から顔をのぞかせて地上の様子を伺っていた少年が不安げに小声で呟いた。固く握り締めた手は既に真白くなっている。

ハニーブラウンの柔らかそうな髪を乱す下方からの風に、彼の微かな呟きはたちまち散り散りに吹き飛ばされてしまう。


「どっかから情報が漏れたんだろうな」


気圧を調整するためにバルブを動かしていたもう一方の少年が、風に負けじと声を張り上げて答えた。

気球はふわりと上昇し、月が丸さを取り戻す。

見つかっちゃうよ、と慌てて床にしゃがみこんだ少年を見て片割れの彼がくすくすと笑う。緊迫感はまるでなく、至極楽しげに。
無数のサーチライトが気球を探して闇雲に夜空を飛び交い続けている。


「やっぱり今回の仕事、オレもついて行…」
「レン。」


笑っていた黒髪の彼に手招かれるまま、レンと呼ばれた少年が彼に近付いた。
くしゃくしゃと乱れた癖毛を整えるように、器用な指がその髪を撫でる。

反射的に細められたレンの目は月光を弾いてきらりと金色に瞬いた。


「ここで待っとけよ」


白い耳に唇が寄せられ、低い声が鼓膜を伝う。

じわりと紅く染まる頬は青白い月の光をもってしても誤魔化されず、はっきりと目に映った。


「さーて、一仕事してくるか」


黒髪の彼が立ち上がり、束ねられた太いロープを解く。
気球の縁にその端を固定し、碇のようになっているもう一端を慎重に地上へと降ろす。身を乗り出して上手く建物の影に降りられるよう目算しながら。

漆黒の髪が激しく風に舞う。


「イズミくん!」
「なに?」


片手でロープを掴んだまま、黒髪を乱したイズミが振り向く。強風に煽られて耳の先まで痛い。
半身は既に気球の外でぽっかり開いた夜の口に飲み込まれている。
床にしゃがみこんでいたレンが、そろりと彼に近付いた。


「捕まらずに、ちゃんと、帰ってきてね」
「当たり前」


降りていく寸前に交わした口付けは、かすかに夜の味がした。







午前零時の夜間飛行




















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拍手から再録。
090626〜090924



設定についてあまり深く考えてはいけない。
モデルは某児童文学。





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