窓の外に広がる空はもったりと重たいねずみ色。
肌に水滴ができそうなほど湿度は高く、不快指数も鰻登り。

苛々と尖る気分を誤魔化すように、泉はノートの端にシャーペンの先を打ち付ける。晴れもせず、かといって降りもしない中途半端な天気だ。
冷房のない教室の窓は開け放してあるけれど、たまにべったりと生温い風が吹きこんでくるだけでちっとも涼しくはならない。

前の席で浜田が大きくひとつあくびをしてから、ずるずると机に突っ伏した。程なくして穏やかな寝息が聞こえてくる。

いっそ雨が降れば気温も下がるかもしれないのに、と、頬杖をついて校庭を眺めるふりをした。目的のものはすぐに泉の視界に入る。

チョークが黒板を叩く音に合わせるように、窓際でひょいひょいと薄茶の髪が揺れていた。
窓に目を向けると必然的に斜め前の三橋が見える、いい位置だ。授業に集中はし難いけれど。
暑さと湿気で苛ついていた気持ちも少しずつ穏やかに凪いでいく。自分でも単純だと思うが、事実なのだから仕方ない。

教師に当てられてたどたどしく英文を読み上げる田島の声が右耳から左耳へと素通りしていく。
薄茶の髪が再びふわりと視界で揺れた。


(あ、なんかいつもより髪がくるくるしてるよーな気がする)


目線の先で跳ねる毛先が、今日は殊更にあちこち巻いたり膨らんだりしていた。


(湿気すごいもんなぁ)


細くて柔らかいあの髪はこんな梅雨の時期には大変だろう、そんなことを考えつつ見ていたら、ノートに目を落としていた三橋の頭が突然ぐらりと大きく揺れた。
続けて慌てたように背筋がぴんと伸び、再びうとうとと穏やかに肩が上下する。


(寝てんな、あいつ)


くすりと笑いかけて授業中だったことを思い出し、ぐっと両頬に力を入れた。その瞬間、


ぱしっ


泉の後頭部へざっくりと何かが刺さり、軽い音をたてて床に落ちた。
頭を擦りつつ目を落とせば、おおざっぱに折られた紙飛行機がぴんと翼を伸ばして鎮座している。
ご丁寧にも片翼に『泉』と書いてあったから、慌てて拾い上げて机に突っ込んだ。

後ろからの襲撃。犯人には、おおかた予想がついている。
眉をひそめながら、教師が黒板にむかった隙にくるりと容疑者のほうへ振り向いた。

案の定、斜め後ろで満面の笑みを浮かべた田島がひらひらと手を振っている。


『痛ぇんだよ!』


声には出さず口を大きく動かして伝えると、読みとった田島は大袈裟にぱくぱくと口を動かした。
何が言いたいのか分からない。

首を傾げて見せる泉に焦れったくなったのか、田島は素早くノートの端を千切り小さく丸めてから投げて寄越した。
開け、とジェスチャーで示される。

ごそごそやっている後ろの様子に気づいたのか、前から眠そうな顔でのぞき込んできた浜田が、文面を見るなり細い目を思いきり丸くした。



『イズミ、見すぎ!シカンってゆーんだっけ?』



「たっ、田島、それはなんか違う!!」
「てめー、なに書いてんだよ!!」



勢いよく振り返った先には、田島の首根っこを捕まえた英語教師。
げっ、と泉が呟いたのと、ひ、と浜田が息を飲んだのは同時だった。


随分と楽しそうだね三人とも。
楽しそうに言う教師の目はちっとも笑っていない。怒らせると怖いタイプの典型だ。
見つかっちゃった、と首を捕まれたままの田島が能天気な笑顔を見せる。


俺は関係ないのに……と呟いた浜田の横で、うたた寝から覚めたらしい三橋が「ふぁ」と小さくあくびをこぼした。






rein or shine




















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拍手から再録。
090626〜090924


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