ピッ、と小さく音をたてて、四角いビニールの袋の端が泉の歯に引きちぎられる。その瞬間が好きだと、口にしたことはなかった。形の良い、泉の真っ白い歯。

整然と並ぶ歯列に、身体の奥底が火を灯されるように疼く。シーツの上で三橋はゆるくまぶたを下ろす。瞳では、きちんと泉の挙動を追いながら。噛んでほしい、と無意識のうちに、そう思った。
端を噛み切った袋から、器用な指先がコンドームを取り出すのを見つめる。半透明な、泉と自分とを隔てる薄膜。


「それ、すげーそそる」


それ、が何を指すのか聞き返す間はなかった。
押し開かれた後孔は既にぐずぐずに解けて、溶けている。まるで熱せられたバターのようにとろとろに。指の先までが熱くて、このまま本当に溶解しそうだと思う。いつも。

抗う意思のない身体は泉の揺するままにゆらりと揺れる。シーツから、反り返った背骨が浮き上がる。結合部からは濡れた音。やっぱり、きっとこのままバターのように溶けてしまう。
たくましい泉の腰に腕を絡める。そうなれたら、素敵かもしれない。泉の抽送が激しさを増す。


「…っずみ、く」


枯れた喉で必死にそれだけを呟いた。嬌声は絶え間なく唇からこぼれ落ちているのに、肝心な時にこの喉は役に立たない。バターになりたい、と伝えたいのに。

ゆっくりと、泉が腰を動かす。焦らすような動きが、逆にひどく身体の芯を刺激する。
泉は少し悩ましげに眉を寄せながら、心底幸せそうに微笑んだ。


「俺もだよ、三橋」


そう言って、笑って。
向日葵よりも鮮やかに、桜のようにひそやかに、笑って。
ひときわ大きく突き上げられて、綺麗な微笑みがぶれていく。もっと、もっと見ていたい。

身体は既に意思から離れて腰を揺らす。腰の奥が重くて熱い。ああ、もう。


「イっ、ちゃ、」
「一緒に」


一緒に、と呟いた瞬間に泉は強く三橋の背中を抱き寄せた。身体がベッドから浮き上がり、深くなる結合にめまいがする。必死で目の前の肩にしがみつき、鎖骨に鼻先を埋めて堪える。隙間なくくっついた胸板はどちらもひどく汗ばんでいた。ここから、溶けてしまえばいいんだ。


「三橋」


果てる瞬間に、包み込むようなキスをされた。











「あれ、無意識?」
「あれ、って?」


ぐしゃぐしゃになった生ぬるいシーツを指先で撫で付けながら、泉は「うーん」と呟く。言い淀む様子がらしくなくて、三橋はころりと左に寝返りをうった。仰向けのままの泉が、天井に向けて薄く唇を開く。


「なんか、煽られんだよ」


言うなり、泉の腕が三橋の腰を捕らえる。性交前のそれにも似た仕草に、静かに眠ったはずの熱源が蠢きそうになって慌てた。腰に回された腕はやんわりと、緩やかに三橋の身体を引き寄せる。
ぱち、と至近距離で交わった泉の瞳はやわらかく、少しばかり楽しげに艶めいていた。


「ゴム開けるとき、いっつも俺のことじーっと見てるのが」


やはり少しからかうような調子で、けれど愛しげな色を含んだ声音で。泉が言葉を発するたびに白い歯列が見え隠れする。あの瞬間にも今も何故か自分を誘ってやまない、きれいな歯の粒たち。キスをすればきっと舌先に滑らかな感触を得るだろう。唇よりも歯に反応するなんて。頬がじわじわと熱をもっていく。


「使わないほうがいいか?」


ゴム、と呟いた泉の目は純粋に澄んで、今度は笑ってはいなかった。純粋に、真摯に好悪を尋ねる黒い瞳。
ゴム、と三橋は反復する。泉と自分とを隔てる薄膜。バターになりたい、と、今でも確かに思ってはいるけれど。


「いいん、だ」


泉を見つめて囁く。
だって、泉が自分の身体を気遣ってそれを使うことは知っている。
泉の腕の中にすっぽりと包まれて、性交中とはまた違う、穏やかな熱にゆっくりと溶けていくような気がした。バターになりたいと願ってはいるけれど、今だってほら、十分に幸せだ。


「そっか」


甘く首筋に落ちる囁き。
じゃれるように、泉の前歯が皮膚をなぞる。自分を欲情させるその歯列に首筋を噛まれて、幸せだともう一度思った。
























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歯フェチ三橋…すみません…。


10.0418

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