ふわっと白くてやわらかそうなマフラーをたなびかせた見知らぬ女性の細い腕は、それを待っていたのだろう恋人らしき男性の腕にするりと絡んだ。自分達とすれ違うように歩いていく、腕を組んだ男女。それを何とはなしに花井は目で追う。羨ましい、とまでは思わないけれど。

恋人同士はいつから恋人然とした振る舞いが出来るようになるのだろうか。
元は友人、もしくは知人であった二人にいきなり恋人というレッテルを貼って、果たしてすんなりそう振る舞えるようになるかといえば、そんなのは到底無理な話だ。
当然、自分においても例外ではなかった。想いが成就した翌日から恋人然と振る舞えるようになるかといえば、答えは否だ。

ぐるぐるとそんなことに思いを馳せる花井の隣で、三橋は目をキラキラとさせながら両手で持った肉まんに噛り付いている。
目が輝いているのは周囲の様子のせいもあるだろう。通い慣れた通学路から少し外れた道は、ぶり返した寒さのせいでうっすらと雪に覆われていた。
少し早く切り上げられた練習のおかげでこうして遠回りしながら帰れている。が、しかし。

冷たい指先に息を吹きかけ、半月型になった肉まんを持つ三橋の手をちらりと窺う。
自分と同じくむき出しの両手は多分ひどく冷えている。


「うまい?」
「うんっ」


無邪気にこちらを見上げて三橋が笑う。マフラーにすっぽりと包まれた首元は暖かそうだ。
仕方なく、花井も自分の手にあるまだ丸いままの肉まんを噛った。満月がぽっかりと欠ける。肉まんは既に大分冷えていた。


あてもなく足が向くままに歩いている。学校近くの民家の屋根は総じて白く、道の端にも少しばかり濁った雪が凝っていた。薄い雪は昼の気温に耐えきれず溶けて、歩くたびにさくさくという軽い音ではなくべしゃりと濡れた音がまとわりつく。

例えば今まで積み重ねてきた友情みたいなものは、まっさらでさくさくの雪みたいなものだ。そこに倒れても汚れない。柔らかいから痛くもない。


肉まんを食べ終えた三橋は包み紙をポケットにつっこんで、そのまま歩き続ける。行き場のない両手が身体の左右でふらりふらりと揺れている。

味のしない肉まんを飲み込みながら花井はその手を見つめていた。
「恋人然とした振る舞い」に踏み切ることには、新雪を踏み荒らすような勇気を必要とする。早い話が手をつなぎたい、ただそれだけのことなのに。


「花井くん、あれ」
「え?」


三橋が嬉々として指差す方向には小さな雪だるまがあった。石の目と葉っぱの手。恐らく、近所の子供が作ったのだろう。


ぐっと、腕を掴まれて心臓が口から出るかと思った。
見に行こう、と誘うように三橋は花井の腕を掴んで、それから「しまった」とでもいうように少し俯いた。掴んでいた三橋の手が離れる。冷たそうに白くなった手。三橋の耳は明らかに赤い。

なんだか気恥ずかしい想いが伝染し、花井はポリポリと耳の後ろを掻いた。肉まんの最後の一口を口に突っ込む。やっぱり、味がしない。


「三橋、手、つながねぇ?」


我ながら変な質問だと思いながら、それでもぎこちなく手を差し出す。一足飛びに恋人然とすることなんて不可能なのだから。一歩ずつ、一歩ずつ。遅すぎるくらいがちょうどいいのかもしれない。


ゆっくりと三橋の指先が伸びて、そして花井の手のひらに触れる。ゆっくりと。冷たい指先がもどかしくて急いで指を絡め合った。じんわり、また少しずつ熱が通っていく。


「もう少しだけ、遠回りして帰ろうぜ」
「う、ん」


小さな、小さな一歩だけれど、このくらいが今はちょうどいい。
指先に灯る熱を感じながら雪の溶けた道をふたり、歩いていく。足元の濁った雪も不快ではなくむしろ心地よく思えた。
隣を歩く三橋の、赤く染まった頬や唇を見ながら思う。どうか明日はまた一歩、前進出来ますように。
























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なーなさまリクエスト「付き合いはじめの初々しいハナミハ」ということで…初々しい感じになっていればいいな…!


ヤキモチハナミハもまた是非書きたいと思います!リクエストありがとうございました!


10.0220

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