かみさまおれはなにかわるいことでもしましたか。


そんな思いが頭をよぎる。
目の前の状況に頭がついてこない。いやしかしこれは現実だ。生きててよかった。じゃないじゃない、そうじゃねーだろ俺。


「あのさ、三橋、」


落ち着いて落ち着いて、まずは状況の確認を。
なけなしの理性を総動員で挑む。もはや胃が痛む余裕すらない。


「お前、どれ食ったの?」


これー、とへにゃりと笑った三橋が指差す箱の中。いくつかボトル型にぽっかりと空いたスペースを見て、今度こそ俺は頭を抱えた。


「これ、バッカスって書いてあんだろーが!」
「ばっかす?」
「酒入りだよ酒入り!」


ちょっと飲み物を取りに台所へ行っていた隙に、三橋はそれはもうすっかりと、どうしようもない具合に出来上がってしまっていた。幾つか残ったボトル型のチョコを手に取る。思ったよりも重くて、内部でたぷんと液体の揺れる感触がする。

母親が出掛ける前に「貰い物だけど食べていいからね」と三橋の前に置いていったチョコレートの詰め合わせ。その中から単純に大きめのそれを選んだのだろう。酒入りだなんて知らずに。


「はないくん」


珍しくすらすらと、甘い声音で呼ばれる。美味そ……じゃないじゃない、苦しそうに緩む唇からこぼれる吐息。色付いて潤んだ目尻。弛緩しきった笑顔がこちらに向けられる。
いったいこれはなんの試練ですか、神様。


いっそこれが、野球部のやつらが企てた悪ふざけだったらいいのに。

ほら、こうして動揺したり葛藤したりする俺を、水谷や田島あたりがこっそり物陰から覗いてたりして、三橋も俺の演技力すごいでしょう、なんて言って笑って、


「はないくんー」


そんなわけはない。残念ながら。

ここは俺の家で、三橋と俺のふたりきり、一緒に済ませるはずの課題がテーブルに所在なく広げられている。

酔いに引きずられた舌っ足らずな声で呼ばれて、体温がふつふつと上がるのを自覚した。

据え膳なんてまだ生ぬるい。
うっすらと、それはもう美味しそうな桃色に染まった獲物が、それはもうふわふわと嬉しそうに笑って、自ら近付いてくる。助けてくれ。


半端に残った理性が頭の隅でちかちかと黄色いランプを瞬かせる。

押し倒すのは簡単だ。
体格差は歴然。しかし、相手は酔っている。しかもべろべろに。俺にも一応、良心の呵責はある。


「三橋、落ち着いて聞けよ、」


三橋の傍らにしゃがんで目線を合わせ「お前は今酔ってるんだ」と、半ば自分に言い聞かせるように告げようとした言葉は、俺を抱き寄せるように首に絡められた三橋の腕で阻まれた。


首に触れる腕の皮膚がやっぱり妙に熱くて、じわりと伝わる温度に凝り固まった理性が溶ける。熱い。
ぐいっとそのまま引き寄せられて、カーペットに両腕をついた。床に仰向けに倒れ、俺の首に両手を絡めて、三橋は上機嫌に笑っている。ぷつん、と理性が切れる音を初めて聞いた。


「ごめん、三橋」


突然の謝罪に首をかしげる三橋の首筋に噛み付く。強く吸い上げると綺麗に赤く花が咲き、三橋は濡れた声をこぼす。歯が溶けるほど甘い。

そのまま、両膝を割り開き股間に足を押し当てた。わずかに反応を示す三橋のもの。再び吐息が三橋の唇からこぼれる。
とろりと潤んだ目をしたまま、恥じる様子もなくゆるく腰を揺らす三橋に目眩がした。


「あんまり、煽んなよ」
「ふ、ぁ」


言葉とともにシャツの裾から滑り込ませた手で素肌をなぞる。片手で三橋のベルトを外しながら。胸の突起を弱く掻くといつも以上に身体を跳ねさせて、絡めた手でぎゅっと更に強く引き寄せられた。


「三橋、ちょっと力抜け」


抱きしめられるのも悪くはないけれど、こっちも今日はあまり余裕がない。
ベルトを外し三橋の下着を下ろす。直接触れるとたちまちに性器は硬度を増し、三橋は身を捩るようにして腰を引いた。今更逃げるなんて許すはずもなく、その腰に手を回して抱き寄せる。鈴口に爪を立てると滲む蜜が爪先を濡らした。


「ぁっ、」
「声抑えなくていいから」
「ひ、ぁあっ」


そろりと後孔に指を這わせ、先走りの体液でそこを解そうと試みる。固くまぶたを閉じた三橋はふるふると首を横に振り、けれど唇からは淡く甘い声が聞こえて。

あ、と三橋が小さく鳴いた瞬間に、きつい後孔に人差し指が滑り込んだ。痛いのか、萎縮する三橋のものに再び指を絡め、吐息をこぼす唇に噛み付く。口内はカカオの香りと、少しクセのある酒の味がした。ぴちゃりと響く水音にまた煽られる。自分は我慢強いほうだとおもっていたのに。

口内を舌で蹂躙し、三橋の性器が硬度を取り戻すのを待ってから後孔に差し込んだ指を動かす。


「んぁ、ぃっ」
「大丈夫か?」
「ひぅ、あ、きもちい、」
「…っ」


忘れていた。酔っていたんだった。
いつもの三橋なら口が裂けても言わないような率直すぎる反応に、自身がどくりと脈打つ。解れてきた後孔に更に指を忍ばせ、奥を探る。見付けたポイントを指先でなぞれば、抱えた三橋の背中が弓なりに反った。唇からは声にもならない吐息がこぼれ落ちる。


「ぁふ、ぁっ そこ、やだっ」
「嫌じゃねーだろ」
「ひ、ぁっ」


前立腺を少し強く掻いた瞬間に三橋は震えながら吐性した。後ろだけで達するなんてすげーな、と思いつつ紅潮した頬を見る。酔っ払いも悪くないかもしれない。


「んぁ、はない、くん」
「…お前、なぁ」


強請るように三橋の腰がふらりと揺れる。うっすら目を開けて、舌ったらずな口調で呼ばれてしまえば限界だった。元々、余裕なんてない。赤みの差した口元がまた俺の名前をつむぐ。子供がお菓子を欲しがるみたいに。
いれるぞ、と言うのと挿入したのは同時だった。


「ぁぁあっ、いぁっ、ぁんっ」
「悪い、三橋」
「んぁっ、ひゃぁっ」


接合部から濡れた、まだ少しキツそうな音がしている。三橋の白濁を潤滑油にして自身が腸壁を滑る音。堪えて二度三度と突き上げるたびに三橋は甘く鳴く。頭に上った血が下りてこなくて、三橋の声だけでイけそうだ。


「ごめん、キツかったら肩噛んでいーから」
「んっ ぁ 」


しがみつく三橋にそう告げたけれど、聞こえているのかどうかは分からない。俺の肩口に顔を隠すように額を押し付けて、三橋が喘ぐ。熱い息が肩に落ちて弾けた。

突き上げる速度を上げて三橋の奥を深く抉っていく。
殊更甘く鳴いて三橋が達した瞬間に、俺も引き抜いて吐き出した。引き抜いた自分の最後の理性を褒めてやりたい。











「起きたか?」


すとん、と落ちるように眠ってしまった三橋の目がようやく薄く開く。後処理は眠っている間に済ませておいた。罪滅ぼし、とも言えるかもしれない。

薄く開いた三橋の目は、しかし俺を捉えたとたんにぎゅうっと固く瞑られてしまった。わけが分からないまま三橋の顔を見る。たったあれだけの酒の量だ、とっくに酔いは醒めたはずなのに、まだ、頬が赤い。まさか。


「三橋、ひとつ聞いていいか」
「…………」
「どこから、意識あったんだ?」


寝たふりを続ける三橋に溜め息を落とす。怯えるように肩がぴくりと揺れたから、慌ててそのまぶたに唇を落とした。

怒ったり呆れたりするわけがない。溜め息は安堵からくるものだった。意識のない三橋に無体を働いたと嫌われたら、と、眠っている間ずっと危惧していたから。

まぁバレンタインだ、好きな相手に騙されるのも悪くない。
























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バレンタインハナミハ。い、色気がなくてすみません…!どうやらわたしは花井を悩ませるのが好きなようです。


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