わずかな光沢をもつ、濃い橙色の果皮。小さく窪んだ部分に爪を沈める。
皮の表面は最初こそ抵抗を示したものの、すぐにふかふかと柔らかく裂けた。

ローテーブルに幾つか置かれた果物のかたちはグレープフルーツによく似ている。
イヨカンだと教えられたその実は、蜜柑の仲間と呼ぶには大きくて。
手で剥くにも少し抵抗があったけれど、エアコンで程よく暖まった室内に相応しい、暖気を凝縮させたような色に惹かれて手に取った。

泉の母からだという手土産に含まれていたイヨカンに、三橋はゆっくりと爪を立てていく。心地よい室温、窓は真っ白に結露している。


「ひゃっ」
「あったけー」


思わず、ほんの一瞬肩が跳ねる。
隣に腰を下ろした泉が、冷えた手を三橋の首筋に潜り込ませて至極楽しげに笑っていた。

五分前、玄関を開けるなり「おめでとうございます」ときっちり頭を下げて見せた礼儀正しい泉はどこへ行ったのか。
三橋の母親に挨拶を済ませた彼は、もう普段と変わらないくつろいだ笑みを浮かべて、肌の上で凍えた指先を解している。

階下では母親が泉の家へ電話をかけているころだろう。手土産のお礼と、新年の挨拶のために。


首筋がぴたぴたと冷たい。
外は寒いのに、今年初めて部屋に来てくれたのが泉だなんて。なんだかくすぐったいような気持ちに負けて、服の襟元から忍び込む冷えた指先を振り払うことは出来なかった。


ころり、床に放っていたボールが泉のそばへと転がる。


会いたいのは自分だって同じだったけれど、自ら泉の家へ出向く勇気はなくて。だから、嬉しい。


ぼんやりとそんなことを考えながら、つややかなイヨカンの分厚い皮を剥く。
ざっくり二つに割って白い筋を丁寧に指先で除き、実を包む薄い袋を剥がして。


「あったかい」


三橋の手元をじっと見つめながら、泉は淡く息を溢すように呟いた。
近い距離のせいで、低く小さなその言葉さえも刺激に変わって鼓膜を甘く震わせていく。

爪の内側が微かな橙に染まる。薄皮を剥がす手に視線を感じて落ち着かない。


つぷり、と。狂った爪先は水気の多い果肉にまで傷をつけてしまう。
溢れた果汁が机上に落ちて、綺麗な真円の模様を描いた。


「こっちに集中しろよ」
「でも、」
「うちのオフクロ、長電話だから大丈夫だって」


拗ねたような彼の口調がおかしくてつい小さく笑うと、橙色の果肉から指へするすると果汁が伝い落ちる。
泉の言葉を証明するように、階下からは母親の朗らかな笑い声が聞こえていた。


手から取り上げられた橙色の果物が机の上で転がり、指先の果汁は滑らかな舌に舐め取られて。
ちゅ、と細やかな水音を残した唇が指を離れていく。


「そこ、こぼれて、ないよ」
「知ってる」



首に押し当てられた唇が熱い。泉が口を開くたびに、こぼれた吐息が肩口に溶けて染み込む。


電話が終わるまで、と囁かれたから、素直に一度頷いた。


揺れた首筋からは仄かな柑橘類の香り。目を閉じると更に強くなる芳香に酔う。
このまま永遠に終わらなければいいのに。
























─────────

新年早々バカップルですみません。明けましておめでとうございます!


10.0102

QLOOKアクセス解析
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -