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 ※微 変態注意※
 (久藤×耳フェチ先生)



















尻尾でも振りそうな、キラキラと輝く目が眼鏡の内側に潜んでいた。
期待に満ちた眼差しでこちらを見ているその人はきっと、「代償として三回まわれ」と言えばくるりとまわって見せるのだろう。多分、躊躇いもなく。

プライドが無い、という話ではなくて、これは彼にとってそのくらい比重の大きなものであるらしい。
それ程に求められるのは、普通であれば悪い気はしないし、嬉しくないと言えば嘘になる。但し、普通であれば、だ。


細い指が僕の頬を伝い、許可を与えて欲しいと言わんばかりに焦れた目がこちらの瞳を射ぬく。
率直に言うなら、まぁ優越感を感じられるような、そんな熱烈な求め方だった。
どれ程か良かっただろう。求められているものが、耳でなければ。



いいですか、と喜色満面に問われたが、どうにも背徳感が上回り声を発するのも憚られる。
何時になく真摯な気持ちで誰でもいいから扉を開けてくれないかと願ったけれど、教室の外は変わらず沈黙を保っていた。試験が近く部活動も休みで、校舎内は無情なまでに静かだ。


「耳に触らせてくれませんか」と初めて尋ねられた時に、はっきりと断るべきだったのだと思う。
考えもせず軽く了承した為に、以来、ずるずると奇妙な関係が続いてしまっている。


目の前には、やはり子供のように無垢に輝く瞳があって。
引いてしまいそうになる自分の肩を押し留めつつ、僕は許可の印として小さくひとつ頷いて見せた。

忽ち、頬の辺りを弱く這っていた彼の指が滑らかに動いて僕の耳へと行き着く。


フェティシズム、とでも呼べばいいのだろうか。
彼は異常な程に僕の、耳が、好きだった。



「失礼します」



言葉と共にぐっと近く顔を寄せられ、こめかみに眼鏡のフレームが触れる。
冷たい金属を当てられた肌がピリピリと騒ぐ。胸中までもが忙しなく波立つのは、温度差のせいではなくて距離のせいだ。

僅かに開かれた彼の唇から淡く感嘆するような吐息がこぼれ落ち、僕の首筋で泡のように弾けた。



「本当に、良い形の耳ですね」
「……そうですか」



平常心平常心、と自分に言い聞かせながら短く返す。
恍惚とした声音で紡がれたよく分からない称賛が、冗談なら良かったのに。
生憎と本気でそう口にしている彼は、休むことなく僕の耳を愛で続けていた。

存在を確かめるように細やかな指先が耳裏をなぞり、頂点から耳たぶまでを挟んでするすると撫で下ろす。
薄い皮膚を爪で掻いてから再び耳の裏へと、幾度となく、繰り返し同じ道筋を辿る。

慈しむその手順は最早慣れたもので、一片の戸惑いも感じさせない。
硬直してしまっている自分の方が可笑しくて、彼の行為はごく当前のものなんじゃないかと思える程に。

熱っぽい視線を耳に感じて落ち着かず、少しだけ、逃げるように身体を捩った。



「……っ」



じんと熱をもつ耳の先を、それ以上に熱い唇と舌先でつつかれて、思わず背筋が強ばる。
唐突な愛撫に、制止の言葉も間に合わない。音にならなかったそれはただ弱いだけの溜息に変わった。
耳を行き来する、酷くやわらかい感触。血液が沸騰して目眩を覚える。



最後に一度、前歯の先で甘く耳殻を噛んでから、耳を弄んでいた唇は満足気に離れていった。



「ありがとうございました」



にっこりと綺麗に微笑み、軽やかな足取りで彼が教室を出ていく。

感謝されるのも複雑な気分だったが、反論する余力は欠片も残っていなかった。
恐らく真っ赤に染まっているだろう自分の耳を手で覆い、そのまま机に深く頭を沈める。ああ本当に、冗談じゃ済まない。



最も絶望的なのは、一連の愛撫に嫌悪感すら抱かなかった自分自身の脳味噌だ。
頭を抱えながら、救いの無さに小さく唸った。


































─────────

わたしは一体何をさせたかったんだ…。





091124


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