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青山の体温は時間に反比例して下降していた。ふぅ、と白い息を吹き掛けた指先は既に感覚すら無くしている。校門に預けた背中も冷たい。冬の夜空には明るく耀くオリオン座。待たされているのにも関わらず腹が立たないのは単に慣れてしまったからだった。


『ぱーっと!花火しよう!』
大寒波到来の最中、突拍子もないことを言い出したのは芳賀だった。大方、試験が終わって頭が弾けていたんだろう。その場に居た木野も大いに乗り気で盛り上げるもんだから、勢いでつい乗ってしまった。久藤みたいにさらっと流しとけばよかった、と青山は寒空の下で悔やんでいた。提げたカバンの中には色とりどりの棒花火が詰まっている。真冬に花火だなんて気が違ったとでも思われそうだ。


吐いた溜息が夜に溶けて消えたところで木野を見つけた。
ひらひら手を振りながら駆け寄ってくる木野のカバンからは、打ち上げ花火らしき筒の先が飛び出している。


「芳賀は?」
「まだ来てないよ」


腕の時計は九時ジャストを示していた。三人で待ち合わせると大体時間より早く着くのが青山で、丁度に来るのが木野だった。芳賀はいつもマイペースで、待っても待たせても気にしない。だからこういう事態にも慣れている。
ふう、と吐いた息が再び白く夜を濁らせる。


「青山どのくらい持ってきた?」
「夏の残りのやつだから、そんなに量はなかったけど。木野のそれ、すごいね」
「だろ。家に残ってたんだよ、打ち上げ花火」
「あ、芳賀だ」


カバンを拡げて中身を見せ合っていると、先程の木野と同じようにひらひらと手を振りながら芳賀が現れた。時刻は九時五分過ぎ。芳賀にしては正確なほうだ。
悪いと片手で謝る芳賀を見ながら青山はなにやら嫌な予感がしていた。何故校門前で待ち合わせだったのか。そこらの公園でも良かっただろうに。

ガシャン、と芳賀は門に手を掛け、躊躇なく身を乗り上げる。暗闇に硬い金属音が波紋をたてた。


「え、まさか、校庭で花火するの?」
「そーだよ」
「ヤバいって」
「大丈夫だよ、宿直してんの先生だし」


服の裾を引いて止める青山にそう答えて、芳賀はにかっと笑った。先生なら平気だな、と木野も納得したように頷いて芳賀の後に続く。
仕方なく青山も門に手を掛けた。夜の静寂にガシャンガシャンと門扉の揺れる音が響いている。いざとなったらこの二人を止めなければ。

校舎は恐ろしく静まり返った様子で待ち構えていた。ひとつ、宿直室の窓にだけぼんやりと暖かな明かりが灯っている。蛍のように暖かく、無性に人恋しくなる窓明かりが。


「先生も誘ってみよーか」


そう言うなり芳賀は宿直室に向けて駆けだした。相変わらず唐突に。青山と木野も慌ててその後を追う。
コンコン、と芳賀が窓ガラスを叩くと、少し間を置いてからカーテンがゆっくりと引かれた。


「あれ、久藤?」
「今晩は」
「先生は?」
「今銭湯に行ってるよ」
「なんで久藤が宿直室に、いてててて」
「ほら芳賀、もう行くぞ」


にっこりと楽しげに、暖かな室内の明かりを背景に久藤が微笑む。
質問を重ねようとする芳賀の腕を、青山と木野は目配せをし合いながら強く引っ張った。
なんでこんな夜更けにここに久藤がいるのか、そんなの考えるまでもなく明らかだ。生憎と鈍い芳賀は気付いてないようだけれども。


「何も見なかった、よな」
「うん」


確認するように呟かれた木野の言葉に強く頷いて、青山は芳賀の手を引いたまま再び校門に手を掛ける。冷たい金属の感触に目が覚めるような心地がした。
そうだ、僕は何も見なかった。























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ニュータイプロマンスの「まきこまれ系男子:青山」より。木野芳賀青山はこんなイメージです。


10.02


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