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いいこにしていたら飴をあげよう、と大人はよく言うものだった。だから基本的に従順な子供であった私は始終飴玉を口に含んでいたように思う。分厚いガラスを透かして見える虹色。ビンに詰め込まれた色とりどりの飴玉。薄甘いイチゴやハッカの香り。

武骨な大人の手が、いいこだね、と飴玉をくれる。カラコロと小さな口で飴玉を転がして私は無邪気に笑っていた。飴玉を貰えなくなったのは幾つの時分だっただろうか。




「先生、」


いいこだね、と言われて育ってきたけれど真実そうではないらしい。
押し倒されて尚も首を横に振る、諦めの悪い被害者の目を覗き込む。
制服のまま仰向けに倒れた久藤の腹に跨がり、床に爪を立てている彼の瞳をしげしげと。

私は彼のこの目が好きだ。いつもは指で弾いたらキンと硬い音のしそうな冷たい黒目が、理性と自制の狭間で焦れたように熱をもって色を変える。爛熟した果肉みたいにどろどろに溶けて。
ねぇ久藤くんすごく美味しそう。首のうしろに手を回して引き寄せると制服に包まれた肩が揺れた。私達は薄暗い司書室の片隅で塵屑の如く折り重なっている。


「先生、放して、」


ぷつり、喉元の留め具を外す。苦しそうに詰んだ学ランの襟が解け、久藤は眉頭を強く寄せて表情を歪めた。こんな時ばかりこの指先は器用でいけない。するりと発達途上の胸板を撫で下ろし、行き着いた先の金具を弄る。ベルトを使う服なんてもう随分と着ていないけれど、外すのは以前よりも上手くなっていた。


静かに息を呑む彼を笑って、眼下の唇に歯をたてる。果汁の代わりに唾液を啜る。舌を絡めて執拗に、わざと学内には凡そ相応しくない水音を響かせながら。

下着の上から従順に勃ちあがった彼のものを包めば、若い喉仏がひくりと動いた。こちらはたいへん素直でよろしい。


「鍵、は」
「誰も来ませんよ」


下着の布越しに脈打つそれに爪を立てる。司書室の小さなガラス窓が軋み、キイキイと耳障りに鳴いている。

空に分厚く刷かれた墨が雨粒を振り撒き、暴風にしなる枝が窓を叩き割ろうとしていた。いいこはみんなお家の中で天気予報でも見ているのだろう。

彼の手は頑なに床に張りついているので、仕方なく私は自ら袴を捲り後孔を指先で解していく。
片手で久藤の性器を弄びながら痴態を晒す私は「いいこ」とは程遠い表情をしているに違いない。不安定な姿勢に背筋がぐらりと傾き、腸壁を自分の指が擦る。思わず漏れた声は唇を濡らして。

久藤のものがどくりと脈打ち、瞳が熱を帯びて揺れた。あと一息、といったところだろうか。甘い飴玉を期待した口内がじわりと唾液で満ちる。

後孔に当てがおうと彼の下着に指を掛けた瞬間、引き倒された身体がやわらかく木張りの床を打つ。
形勢逆転、とばかりに私に跨がり、久藤は苦し気に笑っていた。


「学校じゃ、しないって約束だったでしょう?」
「君は少し、いい子すぎやしませんか」
「先生は悪い大人ですよね」
「いいんですよ、大人だから」


慣れた指が袴を潜り私の後孔に滑り込む。的確に前立腺を探り当て、そこばかりを執拗に責められてすぐに頭の中が真白く染まった。
間を置かず、抜かれた指の代わりに脈打つものが当てがわれる。


「先生、」


覚悟してね、と耳元に久藤の息が落ちた。待ち焦がれていた飴玉を与えられた身体が歓喜の悲鳴をあげている。雨音と嬌声が斑に混ざり、司書室の床でしどけなく溶けた。

大人になった私は今も、きちんと飴玉を欲しがる術を知っている。



























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襲い受けせんせい…すみませんでした。


10.0202


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