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※流血注意

















弟の手から取り上げた剃刀が私の肌を切り裂いた。
弾みで触れてしまった刃先が、親指の付け根のやわらかな皮膚を易々と。

どこか心地好くすらある熱の後に一瞬遅れて痛みが走る。ぴんと皮膚が引きつれるような鋭い痛み。ミイラ取りがミイラになるとはこのことか。
支えを失った剃刀がカシャンと床の上で跳ねた。


「命兄さん、血が」


望は早口に、しかし無表情のまま淡々と状況報告をしてくれる。慌てているのかいないのか判然としない。
慌てているのだとしたらとんだ馬鹿だ。自分がしようとしていたことが、他人の身に降り掛かっただけであるのに。

思いの外深いらしい外傷から体液の流れ出ていく感触が伝う。特に何か思うことも無く、その見慣れた赤色を目で追った。
つるりと零れた血が重力に従って球になる。手のひらから離れる寸前、毛羽立ったティッシュに吸い取られて消える。


「痛い」
「切れているんだから当然でしょう」


切開された痛みではなく、望が強く押し当てるティッシュの表面が傷口に擦れて痛かった。
滲む血は空気に触れる間もなく白地に斑の模様を作る。赤と白。まるで何かを賀するようだ。


「馬鹿だな、望は」
「命兄さん程じゃありません」
「馬鹿だから、好きだよ」


色が変わるほど圧迫された手のひら。痛覚が麻痺したかのようにずくずくと鈍く甘く疼いている。
私の言葉に初めて表情を歪め、望は更に強く傷口を親指で押した。止血というには乱暴過ぎる。
痛いと言おうか好きだと言おうか迷いながら、私はただ紅白の模様を眺めている。
























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弟馬鹿×兄馬鹿の話。ブラコン。


10.0107



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