text | ナノ

 ※注意
 足フェチ久藤の話


















外はまだぼんやりと明るく、宵闇は遠い。しかし明かりを点さない室内は暗く、凝ったような夜の気配が静かに部屋の隅に蹲っている。


「綺麗なふくらはぎですね」


言葉とともに撫でられたのはふくらはぎではなく首筋だった。髪と着物を難なく掻き分けた指が素肌をなぞる。
畳に座り、ゆるく立てて開いた私の両膝の間に久藤はきちんと正座して、薄らと笑みさえ浮かべながら肌に指を這わせている。

ゆるゆると潤む視界。
先程奪われた眼鏡は畳の上でなにやら奇怪なオブジェのようになっていた。適当な畳み方をするなんてこの子らしくもない。フレームが歪んでしまう。

つう、と爪の先でうなじを弱く掻かれて背筋が震えた。
久藤は微かに声を溢して笑い、再度爪先で肌を弄る。視線を私の足先に落としたままで。丸くて深い漆黒の瞳に舐められるような感覚。


「綺麗ですね」


言葉とともに、今度は正しくふくらはぎを撫でられた。べろりとめくり上げられた袴の布地が膝の辺りでわだかまる。


「三十路前の男ですよ」
「知ってます」
「綺麗なものですか」
「僕にとっては、とても」


茶化そうと放った揶揄の言葉は意味を成さずに落ちて転がる。
爪先から抜かれた足袋もしんなりと畳に身を伏せる。外気に触れた指が意図せず縮こまり、彼が綺麗だと言う足の甲は弓なりに反った。

ふくらはぎに添えられていた手のひらが緩慢な動きで下りていく。
姿勢を崩さぬままの久藤に右足を持ち上げられ、体勢を崩された私は仕方なく畳に手をついて身体を支えた。客観的に見ればまるで情事が始まるかのような体位だけれども、相変わらず久藤はぴんと正しく背筋を伸ばし、そのまま足の先に唇を寄せている。

くるぶしの隆起した骨を薄い唇で包まれ、かかとをやわやわと手のひらで擦られる。声にすらならない、嘆息とも喘ぎともつかない息が私の口をだらしなく開かせた。

凍えていた足先は今や火の灯ったように熱いのに、甲はやはり弓なりに反ったまま元のかたちを忘れてしまっている。


「貴方は脚が好きなんですか」
「先生の、脚が好きです」


強調された前半の語句は聞き流すことにして、ゆっくりと目蓋を下ろした。
狭まった視界で、膝に引っ掛かっていた袴が脚部の付け根にするりするりと落ちていく。日に晒されない白い内腿に唇の桃色が映える。小さく吸われて、雪原には忽ち紅く花が咲いた。椿のように鮮やかに。


外は既に暗くなっていた。
帯が解かれる音は自制心の欠落を従順に促す。耐えかねて、唇から溢れかけた吐息を飲み込む。足を舐めていた久藤の指先は何時の間にか脇腹へと移り、布地の下で蠢いている。
冬の夜は永い。





















──────────

オチがない


091230




QLOOKアクセス解析
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -