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ガラスのボトルに光を流し込んで思い切り振ったなら、きっと内部はこんな具合だ。
何もかもが輪郭すら欠落させてただ光の白さに染まる。


上下も左右もない空間でロロの意識は掻き混ぜられている。けれど眩暈は起きなかった。感覚や、身体の有無すら判然としない。

自分の目は(正確には目というよりもそれは意識の一部の様に感じられたのだが)、なにやら一生懸命にルルーシュの姿を探していた。
自分の髪は淡い栗色でルルーシュの髪は染まらない漆黒だったという、その記憶だけがロロの意識を支えていた。

それだけ覚えていればまた会える。もしも身体があったなら、至極幸せに微笑みたかった。






「ロロ」

起きろ、とルルーシュの穏やかな声に眠りが奪われる。
リビングを満たす塩気と甘味を含んだ香りに、嗅覚が緩やかな反応を示す。
じっくり煮られたスープの匂い。それから肉と、砂糖や果物の焼ける匂い。

なに作ってるの。
ソファーに埋まり目を閉じたまま、寝起きのぼやけた声で尋ねた。常人よりも鋭い五感で兄の挙動を捉えようとしながら。
ひどく眠たいのは本当だったけれど、もう半分は甘えだった。

ルルーシュの気配が近くなり、身体を預けていた革張りの座面が傾く。ギシリと軽くスプリングを軋ませて頭のすぐ横に座った兄は、呆れた様子で小さく笑った。声音はどこか柔らかく甘い。


「そろそろ夕食だ」
「豪華だね、今日」
「鼻が利くな」


再びロロの頭上からくすりと淡く笑い声が溢される。
鼻をくすぐる甘い香りの正体はリンゴの焼ける匂いだろう、と見当をつけた。器用な兄のことだから、デザートまで自作したのに違いない。

閉じたまぶたの裏側、闇の中でチカチカと光が瞬いている。いつ目を開けようかな、と考えながら、急かすでもなく自分の髪を撫でるルルーシュの指先を追っていた。


「おめでとう」


小さく祝福の音が降る。
耳に滑り込むその甘さに身を委ねた。

凍えた身体がぬるま湯で解けるように、指の先までじんわりと広がる何かの呼び名はもう知っている。
触覚も聴覚も嗅覚も彼に浸されていて、心地よさに溜め息が出そうだ。
全てはいつだって兄のもたらす幸いを感受するために在った。







純白の空間。
光の渦に意識が混ざる。
一瞬、渦中で甘い香りを嗅いだ気がした。

自分の髪が果たして何色であったのか、ロロにはもう分からなかった。
兄さん。早くしないと僕はあなたの色も忘れてしまう。混濁する意識の隅で彼は小さく呟いた。
景色は変わらず果てしなく白く、ルルーシュの漆黒はまだ見つからない。
全ては光に溶けていく。






(輪廻の外でまた会える)


















─────────

ロロ誕。
Cの世界のイメージで。


091219


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