*小話/イズミハ






泉→三。短い。

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室内はまるで真夏日である。
タンクに並々と水をたたえたヒーターが、しゅうしゅうと部屋の空気を湿らせる。泉が横目で見上げた出窓はまっしろに結露して、幾筋もの歪んだ線が描かれている。上から下へ。ガラスのうえを細やかな雫がつるりと滑り、かたわらを流れるもうひとつと合わさって、勢いを増して流れ落ちる。
そんなものをぼんやりと目で追いながら考える。先程から泉の背中にも、同じように雫が伝っていた。暑い。しゅうしゅうと、ヒーターは相変わらず蒸気を吹き上げる。

ゆっくりと指を屈伸させる。錆びついた機械の稼働部のように、ぎこちなく動いたそれが右目の端にうつる。ゆっくり、ゆっくりと、一回、二回。指の先を曲げては伸ばす。同じく右目の端にうつっている髪は揺れなかったから、ほう、と静かに息を吐く。その淡い茶色の柔らかな毛先は、泉の肩口にふんわりと触れていてくすぐったい。

みはし、と唇の動きだけで呼びかけてみるけれど、空気を震わせなかったそれに答える声があるはずもなく。

なあ、起きてくれよ。お前が枕にしてるのは俺の右肩で、なんだかそろそろ腕もしびれてきたし、そんなのはまあ実はどーでもいいことなんだけど、髪の先っぽしか見えないからつまんねーし。

泉が本当に少しだけ、じり、と腕を動かそうとした瞬間、三橋の口からちいさな呻き声がこぼれた。慌てて一瞬動きを止めて、三橋が寝ているのを息をひそめて確かめてから、ほっと胸を撫でおろした。それから、そのむずがるような反応に思わず笑ってしまう。子供みてぇ。

前言撤回、やっぱ起きなくていいよ。ヒーターのスイッチも切れないし、三橋の体温が子供みたいに高いせいで暑いけど、でも。お前が起きたら俺はきっと、軽くなった肩が寂しくなるんだろうし、ひらいた距離が恨めしくなるんだろう。だから、もうすこしだけ。

室内は相変わらず真夏日のように暑く、規則的におだやかな寝息だけが聞こえる。
三橋の髪を鼻先でくすぐってから、ゆるく目を閉じた。

















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