文武両道に富んだ全寮制男子高、私立嵩頭学園。 白で塗られた五棟ある寮の一号館の最上階に、椎名暁久が暮らす寮の一室があった。 ベージュ色のスラックスに、シャツのボタンを二つ外しワインレッドのネクタイを締める。 その上からスラックスと同色のブレザーを羽織るとお洒落な嵩頭学園の制服姿の出来上がりだ。 バス、トイレと分かれた洗面台の鏡に、綺麗な二重瞼をした茶髪の少年が映っている。 暁久は慣れた仕種でワックスを適量取り、トップから髪先へ馴染ませながらつけて毛先を跳ねさせる。 (ここの角度が重要…と) 洗面台の鏡で入念に髪型を確認し、さっと全身のチェックも済ませると携帯と財布を持って寮の部屋を出た。 これから初めての生徒会会議が行われる。 4月1日になり、生徒会副会長となった暁久は、学生と雑誌モデルという二足の草鞋を履く高校二年生だ。 いまだ春休みでゆっくりとした時間が流れる寮内。 両耳にシルバーのピアスをぶら下げ、颯爽と寮の廊下を歩く。その様はメンズ雑誌から飛び出たモデルそのもので。 「きゃー!椎名くぅーん!」 「はーい」 暁久が通ったことで沸き起こる歓声への対応も慣れたものだ。 外見は茶髪にピアス、綺麗な二重と今時のチャラ男のようだが、笑顔は爽やかで愛想が良い。 呼びかけには笑顔で手を振り、話しかければ軽い調子で応じる。 暁久の人気は学内で一、二を誇るものだった。 「椎名くん!今月発売の雑誌買いました〜」 語尾にハートマークを付けた生徒がやってくる。 その手には暁久が専属を務めるメンズ雑誌、Silver(シルバー)が握られており、表紙には暁久がアップで載っていた。 「初めての表紙おめでとう〜!今月もすごく格好良かった〜!」 「ありがとうー。いつも応援してくれてありがとねー」 雑誌内では長めの前髪がかかった大人びた流し目が堪らないと評判だが、プライベートでは柔らかな雰囲気をしており、そのギャップがファンにウケていた。 暁久見たさに女子がメンズ雑誌を買うほどだ。 男から見ても格好良く、男子校である嵩頭学園では暁久に恋心を抱く生徒がたくさんいた。 [しおりを挟む] 戻る |