夢を見た。暁久が小さい頃の夢。


『また花遊びかよ…。そんなことばっかしてるからアキはいじめられるんだよ』
『あっ!キョウ!』


小学校の花壇に水やりをしていた幼い暁久は、じょうろを片手に振り返った。

夏休みまえの暑い日だった。
青い空は遠く、太陽の光が白く眩しい線となって、大地に降り注ぐ。
小学校低学年の成長途中で、身長が低く大きな二重瞼をしていた暁久は、ことあるごとに女顔だとはやし立てられていた。


『でもちゃんとお水あげないと、お花枯れちゃうよ』


母親の影響か、小さいときは花が好きだった。

今思えば純粋だったのかもしれない。
虹のふもとには宝箱があるだなんて、そんなお伽話のような話を信じていた。
恭佑によくバカにされていたけど暁久は信じて疑わなかった。


『花なんてどうせ枯れるだろ』
『でも水をもらえないで枯れちゃうのとは違うよ!』


口が悪くていつも暁久をバカにするくせに、恭佑はこんな自分がクラスメートからからかわれるたびに守ってくれ、助けてくれた。

友達だった。一番の。

初恋だったんだ。きっと。


『まあ、またからかわれたら俺が守ってやるよ』



今の暁久なら言える。
そんな日は二度と来ないと。

きらきらと輝いていた日々は、思い出したくもない苦い記憶になると。


もう涙は枯れてしまったから。






―――ピピピ、ピピピ、ピピピ


枕元で鳴る携帯のアラーム音に、暁久はゆっくりと目を開ける。
嫌な夢を見た。
思い出したくもない、子供の頃の夢だ。


「……ああ…、そうか」


眠りから覚醒し出した頭で思い当たる。
今日は4月1日。

暁久が生徒会副会長になる日だった。



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