生徒会室には役員と本郷しかいない。 本郷と笠原たちが動かない以上、声を寄越したのは加賀見しか考えられなかった。 (うそ…。初めて話しかけられた) 一匹狼みたいに他人と関わろうとしなかった加賀見だけに、彼と目が合っていても信じられない。 面倒臭そうにしかめられた顔。 しかし嫌々ながらも話に参加している。 いったいどうしたというのだろう。 緊張に似たそわそわと逸る気持ちが胸を焦がし、まともに考えている余裕がない。 だが加賀見から問いかけられているのだ。なにか答えないわけにはいかなかった。 「あ、例えば、彼らを更正しないといけない状況に追い込んだり」 「まあそうだろうが。そうするのが簡単じゃねえんだろ」 加賀見が話しだしたことで我に返ったのか、本郷と笠原たちがはっと目を瞬く。 そして加賀見を見て、喜色を浮かべた。 「じゃあ加賀見くんはどう思う!?どうすれば不良グループの人たちを更正させられるかなっ?」 「そうだねっ!学年一位の頭脳を持つきみなら、なにか良い方法を考えつくかい!?」 本郷と笠原たちは身を乗り出し、ここぞとばかりに加賀見へ詰め寄る。 関心がすっかり彼にいってしまったようだ。 更正の方法などと言っているが、それを口実に加賀見と話したいだけなのだろう。 ぎゅっ…と胸の奥が縮まった。 疎外感のためじゃない。 このような光景を過去にも見たことがあるのだ。 幼い頃、嫌というほどに。 (キョウも…こんなだった) いつも不機嫌そうで他人を寄せつけなかったキョウ。 そんな彼を周囲は恐れていたが、嫌っていたわけではない。 柵の周りから恐る恐る様子を窺っていただけで、本当は皆、彼と話したかったのだ。 そう、たとえばこんなふうに。 「椎名くん!椎名くんは加賀見くんの考えどう思う!?」 突然目を輝かせた笠原が振り返り、暁久の意見を聞く。 しかし過去の記憶を辿っていた暁久は、反応が遅れてしまった。 「え、」 加賀見の考えをも聞き逃したようで、話についていけない。 笠原がなんのことを言っているのかわからなかった。 「ごめん、聞いてなかった。加賀見の考えって…?」 [しおりを挟む] 戻る |