暁久は口が横に伸び、本郷の突飛な考えについていけなくなる。

笠原と木々野も目が点の状態だ。
その気持ちはよくわかる。


「あの、待ってね本郷。その考えはちょっと違うんじゃないかな」


そして考えてもらいたい。
その旧校舎を壊す費用の捻出は、暁久たち生徒会の仕事だ。

お前はどれだけ俺たちの仕事を増やせば気が済むんだ。


「なにも違わないよ、椎名くん!我ながら名案だ!完璧だ!自分の頭脳に惚れぼれする…!」


お前は宝塚か。
本郷の背中に大きな羽根が見えるようだ。

しかしそんな現実逃避をしていても仕方がなかった。
なにより、そうしてる間に本郷はどんどん話を進めてしまう。


「だからさっそく、今週中にでも取り壊しの工事を…」
「ちょっと待って本郷」


暁久は言葉を遮り、アーモンド型の目で本郷を凝視する。
イスに座っているため、自然と上目になってしまっていた。


「取り壊しは先生方の許可がいるからすぐにはできない。それに旧校舎を取り壊しても、あいつらはべつのところに集まるだけだよ。それじゃあなんの解決にもなってない」
「…椎名くん…かっこいい」


語気を強めて本郷を説得する暁久に、笠原と木々野がうっとりと頬を染める。

雑誌でしか見れないような、洗練された表情だ。

そのきりっと上がった目元はたしかにかっこいいが、暁久はそれどころではない。
本郷を自由にさせてしまえば必ずツケが自分たちに回ってくる。
そうして生徒会の仕事が滞って困るのは暁久たちなのだ。


本郷を止めるのに必死で、彼までもが暁久に見とれているとは気付いていなかった。


「だから取り壊しには反対だ。方法はほかにもあるはずだよ」


締めくくった暁久は、本郷の様子を窺う。
しかし微動だにしない彼に、首を傾げた。


(あれ…?俺変なこと言ったか?)


笠原たちも頬を染めているし、うまく状況が掴めない。

どうしようかと思っていると、横から低い声がかかった。


「で?取り壊し以外に、どんな案があるんだよ?」
「え…?」



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