スタジオでシャッターを切る重い音が響く。


「いいよ椎名くん!そう、ちょっと目線上げて!」


モデルの表情を引き出そうと、カメラマンが褒め言葉を駆使してシャッターを切っていく。

カメラマンの背後ではスタイリストを務めた女性が頬を染め、様々な表情を見せる暁久を見守っていた。


「…よし!椎名くんお疲れ!」


満足のいく写真を撮ることができたカメラマンは、終了を告げカメラを下ろす。

それまで目を細めクールな表情をつくっていた暁久は、表情を一転させ爽やかに笑った。


「お疲れさまでしたー」



*****



4月の2週目に入りようやく桜の蕾が開き出した頃、暁久は自身がモデルを務めるメンズ雑誌、Silverの7月号の撮影に入っていた。


休日である今日は朝5時から撮影が始まり、街中に出て日常の一部のようなワンショットを撮る。

その後スタジオに入り、大量の照明をたいた白い一角で服をとっかえひっかえして洋服を魅せるページの撮影へ入った。

それも終わりを告げられ、暁久は一息吐く。
長い一日が終わり、時刻は日没寸前となっていた。


「お疲れー椎名くん。今日の出来もよかったよー」
「水島さん!お疲れっすー」


スタジオとは別の控え室で、用意されたパイプイスに座りながらミネラルウォーターを飲んでいた暁久は、部屋に入ってきた女性スタイリストに気付いて立ち上がった。

水島は真っ直ぐな髪をハーフアップにした、笑顔の似合う美人スタイリストだ。

現場を明るい雰囲気に保つため、時間を見つけてはモデルに声を掛けて回っている。

先程までモデル仲間と一緒にいた暁久だが、彼らが撮影に戻ってしまったため帰る身仕度をしていたところだった。


水島はスタイルが引き立つ紺色のタイトなスーツを着こなし、暁久と机を挟んだ対面に立つ。
ピンク色の唇を持ち上げ、今人気沸騰中の暁久へ他のモデルたちと変わらない、飾らない態度で話し出した。



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