「なっ…」 解放された唇へ、暁久は拳をあてる。 (気に入ってるって…どういう意味だよ…) キスをするくらいだ。 まさか真行地も暁久が好きなのだろうか。 しかし眉をしかめる真行地は、ランキングに固執する暁久の虚を突きたかっただけのようにも思える。 考えたところで、彼の考えは読めないだろう。 他と異なる雰囲気を持つ真行地は、一筋縄ではいかない男だ。 遅れて高鳴る胸が、暁久の動揺を伝える。 それを誤魔化したくて、暁久は過剰に冷ややかな眼差しを真行地へ向けた。 「ふざけた真似すると後悔しますよ。年下だと思って、俺をなめないでください」 「ランキングにこだわるお前が悪い。あんな順位に価値ねえだろ」 「学園ランキング二位でありながらよく言いますね」 「さっきも言っただろうが。なりたくてなったんじゃねえよ」 なりたくてもなれない暁久からすれば、この発言は腹立たしいだけだ。 上位を目指し、日夜努力をする生徒は大勢いる。 家の都合、将来のため、理由はさまざまだが、努力が報われず悔しい思いをする生徒はこの学園にはたくさんいるのだ。 (彼には負けない…) この不良グループを解散させ、一位を目指す。 それと同時に、呑気にタバコをふかしている真行地を二位から陥落させてやりたい。 生徒会副会長でいられる、この一年が勝負だ。 真行地が舌打ちをする。 「ランキングのために優等生してどうすんだよ。くだらねえ」 「…あなたになんてわかりませんよ。ランキング上位が嫌なら今に蹴落としてあげますから、覚悟しておいてください」 そう言うと真行地は眉間に深いしわを刻み、ソファーの背もたれへ豪快に背を倒した。 「じゃあ俺はお前を仲間にして、いつか俺のものにしてやるよ」 「……っ…、あなたのもの…?」 不覚にも胸が高鳴る。 だが野生じみた彼にそう言われると、肉食獣が強引に獲物を狩るような、危険で甘い感情にくすぶられ何ともいえない感覚に陥るのだ。 (だから俺は恋なんかしないっつの…!) [しおりを挟む] 戻る |