彼らをランキング一位になるための踏み台にしようと思った矢先に誘われたのだ。

驚くなというほうが無理な話だ。

それでなくとも生徒会の副会長を不良グループに誘うなど、常人ならば考えつかない。

学園に来たばかりの少年でさえも、戸惑い気に暁久と男を見比べている。
暁久が学園の副会長だと知らないながら、不良グループに入るのには似付かわしくないと感じている。
男の考えることはわからない。

もちろん暁久は入るつもりがなかった。


「悪いですが俺は遠慮します。生徒会副会長をしていて入るわけがないですよ」
「え、」


少年が目を見開き小さく声をあげる。
暁久が副会長と知り、驚いているのだろう。

男は断りの返事を受けても、にやりと笑っただけだ。


「今はそれで許してやるよ。だが俺の言うことは絶対だ。お前は近いうちに俺らの仲間になるぜ」
「……なりませんよ、絶対に」


雄の色香に満ちた笑みは、見惚れてしまうから危険なのだ。
この男はどうしてこうも暁久の心をとらえるのか。

無意識のうちに、眉間に皺が寄る。

同じ男相手に心を奪われそうになる自分を、暁久は理性で押しとどめた。


(恋なんてごめんだ…)


過去の記憶が脳裏をちらつく。
あの時のことでさえ、未だ折り合いをつけられていないのだ。

もう昔とは違う。

母親を支えなければいけなくなった今、恋などしている暇はない。


「言うだけなら好きにできますからね。勝手にどうぞ」
「はっ…。モデルだっていうわりには毒舌だな」
「好き嫌いがはっきりしてるんで」
「つまり俺のことは嫌いってことか」


暁久は胸が強張ったように引きつった。
本当のことなど言えるわけがない。

暁久は生徒会副会長。
男は不良チームのリーダー。

しかも当初の目的を果たせていないとはいえ、暁久は彼らを更生させるために旧校舎まで来たのだ。
相容れることなどありえない。

暁久は男を呼ぼうとして、だがふっと口が止まった。


「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったんですが…」


先ほど不良の一人から、しんぎょうじと呼ばれていた。
それがこの男の名前なのだろうか。


「なんだ、知らないで来たのか。俺は真行地 煉。好きに呼べよ」
「しんぎょうじ…れん」


名前を復唱しながら、暁久は何かが頭にひっかかる。
そして唐突にその理由へと思い当たった。



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