男は少年にむけて口を開く。 「ケンカが強くなりたいなら俺が教えてやる。死ぬ気で挑んで来いよ」 「…はい…!」 芯が籠もった強い返事。 喝を入れた男に、少年は決意で溢れた真剣な表情をしていた。 少年になにがあったかはわからない。 どういう経緯で不良グループに入るという結論に至ったのかもわからない。 わかることは、彼の気持ちが並々ならぬものだというだけだ。 (…本郷にはありのままに言うしかないなー) 旧校舎まで風紀の取り締りに来たはずが、不良グループに一人仲間が増えただなんて言えば本郷は間違いなく騒ぐ。 しかしまだ入学式も始まらない4月1日。 彼らを取り締まるのはこれからでも遅くはない。 リーダーである男は一筋縄でいかないだろうけれど。 (要は俺が副会長でいるあいだに、こいつらを更正させればいいんだろう。そして来年には学園ランキングで一位になる) 新しい仲間の加入でいまだざわつく教室で、暁久はだれにも悟られずに決意する。 学外にまで知られるほどの不良グループを解散させれば、学園側から大きな評価を得られるだろう。 母子家庭で母親に心配をかけないように。将来進学するにしろ、就職するにしろ、学園ランキングで上位にいけばいくだけ有利になる。 この制度に惹かれて嵩頭学園に入ったのだ。 最大限に活用しなくては意味がない。 教室ではいまだ不良達が少年を認められずにいるようだが、男へ反論するような意思は見られなかった。 このグループのメンバーは男を慕って集っているのだ。 一人一人思いはあれど、男が決めたことに反対はできないのだろう。 男が少年への用は済んだとばかりに暁久へ視線を戻す。 今度はなんだと身構える暁久に、男は思わぬことを言ってきた。 「暁久。お前も仲間に入らねえか?」 「……え?」 喉に詰まったような低い声がでた。 リーダーはまたなにを言っているのだと、一瞬辺りが静まり返る。 次の瞬間、どよめきが勢いよくあがった。 「真行地さん!そいつは副会長ですよ!?俺らの敵ってことじゃないですか!」 「あ?敵だあ?」 暁久が教室に入った際につっかかってきた金髪の生徒が、気に食わないと声をあげる。 しかし男の突飛な誘いには暁久もついていけなかった。 [しおりを挟む] 戻る |