「そのガキのことだが」 男は暁久の隣にいる少年を視線で示す。 少年の体が強張ったのが、横を見なくてもわかった。 「暁久は嫌がるかもしれねえが、そいつは仲間に入れてやるぜ」 「そんなっ…!冗談でしょう…!?」 先ほど危ない目にあったばかりの少年への待遇とは思えない。 体の小ささに負けず、不良の溜まり場まで来た度胸は買うが、度胸だけで体力面が今一つなのはさっき見た通りだろう。 ケンカをやりなれていない構え。 スピードのない拳。 ここにいる不良達とはとても渡り合うことはできない。 そんな中に彼を入れても良いように使いっぱしりにされるだけだ。 もしくはたかられ、金を巻き上げられるかもしれない。 男はどういうつもりで少年を仲間に入れると言っているのか。 「冗談なんかじゃねえよ。認めてやるって言ってんだよ、こいつの覚悟を」 男はソファーの背もたれに腕をかけ、タバコを片手にゆったりと寛ぐ。 目を細めて顎をそらすと、少年へにやりと笑った。 「右目が見えねえのに大した度胸だな」 その言葉で、ざわっ…と教室中が揺れた。 口々に驚きの声があがり、少年へ無関心を貫いていた不良でさえ、驚きの眼差しで彼を見る。 驚いたのは暁久も同じことだ。 すぐさま隣へ視線を向けると、少年は顔を強ばらせていた。 白かった頬は血の気が失せ、白いを通りこし青白いほどだ。 暁久は少年を説得するため、彼の肩を掴んだことを思い出した。 大袈裟なくらい跳ねた肩。 あれは少年から見て暁久が右側にいたために、暁久の伸ばした手が見えなかったのだ。 人間は両の目で見ることにより広範囲を視覚にとらえることができる。 右目が見えないということは、人より右側の見える範囲が狭いということ。 (だからあんなに驚いて…。怯えて、肩を押さえてたんだ…) 理由がわかって胸がすく。 だが同時に少年の闇と、男の鋭い洞察力を見た気がした。 [しおりを挟む] 戻る |