はたから見ても親密さを感じさせる自然な空気に、暁久は訳もなく会話の内容が気にかかる。 男の言葉に頷いてみせる長身の彼は、ダークブラウンの真っ直ぐな髪にノンフレームのメガネをかけたインテリ系の端正な顔立ちだ。 とてもケンカをするようには見えない。しかしその目つきは鋭く、触れれば切れそうなほどぴりぴりとした空気を持つ。 さすがは不良グループの一員といったところだろうか。 慣れたように男のそばで控えているのを見ると、グループの参謀的存在なのが窺える。 男が野性的な色気を持っているせいで、周りにいる人間が皆、男のために用意された獲物のように感じるから不思議だ。 このあと、この獲物を自分の好きにするつもりなのか…。 (ハッ…!なにバカなこと考えてるんだか) 愚かな自分を内心で笑うが、そう思わせてしまう男が悪い…。 二人の関係が気になるあまり、強く見過ぎてしまったのかもしれない。 男の視線がすっと暁久へ移り、その強い眼差しと唐突に目が合った。 心臓が跳ねる。 暁久の動揺など知るよしもなく、男がくいと顎をそらした。 「暁久。来い」 「…っ…!」 今度こそ動揺が表に出た。 男に名前で呼ばれ、先程名乗ったのを覚えていたのだとしても、下の名前で呼び捨てにされたことで驚きを隠せない。 これではまるで男が暁久に好意を抱いているようだ。 それは暁久のほうなのに。 平常心でなどいられなかった。 男のもとへ歩み寄ろうとしたが、まだ一年生の少年がいたことを思い出し足を止める。 彼を一人にはできないので、暁久は少年を連れて男のそばへ行った。 「…なんですか?」 あくまで業務に忠実な生徒会副会長という立場を崩さないが、男をまえにすると自然と鼓動が早くなる。 男の力強い目にとらわれれば、そらすことはできなかった。 [しおりを挟む] 戻る |