机が崩れ落ち、教室に木材と金属のぶつかる音が鳴り響く。
耳をつんざくその音に誰もが息を呑み、身動きすらできずにその場に立ち尽くした。


耳元で鳴る轟音が止み、体に感じる衝撃がなくなると、暁久は少年を抱きしめながら身じろぎをした。
わずかに顔を上げ、少年が無事なのを確認する。


(…良かった)


暁久の腕の中で口を開け、小さな子供のようにぽかんとしている少年を見て安堵した。
自分を襲った出来事についていけていないようだが、その体には掠り傷一つ見当たらない。

しかしほっと安堵したのも束の間、暁久はあることに気が付いて眉を寄せた。


(…体が痛くない)


あれだけの音とともにいくつもの机が崩れ落ちたのだ。
無傷で済むはずがない。

なぜだと思い上体を起こそうとしたが、それは温かなぬくもりによって阻まれた。

正面に向けていた顔を動かし後ろを確認する。すると少年を庇おうとした暁久を守るように、男が両手を壁につき盾となって覆い被さってくれていた。


「……なんで…」


暁久は茫然と目を見開く。

男の額から一筋、血が流れ落ちた。


「…っつ…」
「真行地さん!」


男の身を案じて焦ったような声がかかる。
一気に教室中が騒がしくなった。


「…ったく、机の下に飛び出すやつがあるかよ」


男は目を鋭くさせ、暁久を睨む。
舌打ちをするさまは不機嫌そうで、顎にまで伝う血液を乱暴に拭い取った。

暁久は間近でその光景を見ていることしかできない。

とらわれていた。
彼に。


ふいに男が暁久から離れ、机を受け止めた肩や背をほぐすように回す。
そんな彼を不良達が取り囲んだ。


「真行地さん…!大丈夫っスか!?」
「額から血出てますよ!?」
「うるせえな…。こんなん大したことねえよ」


心配する周囲をよそに、男は煩わし気に彼らを散らす。
常人なら流血すれば慌てふためくところ、男は眩暈を起こしている様子もなくいたって元気そうだ。

だからといって暁久まで開き直ることはできなかった。



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