「僕はやりますよ。ケンカだろうがなんだろうが負けません」 少年が肩から手を放し、強い口調で言いきる。 その強い眼差しには並々ならぬ決意が表れていた。 (なんでそこまでチームに入ることにこだわるんだ…?) 少年の揺るぎない目を見てしまえば、暁久も黙るしかない。 しかしいくら本人が決めたこととはいえ、素直に納得もできず、わだかまりが消えなかった。 暁久は少年に気付かれないよう、そばにいる男を睨む。 男はそれに怒るでもなく、にやりと口元で笑っただけだった。 いったい男がどういうつもりなのかさっぱりわからない。 そのせいでますます苛立ちが募る。 対戦相手を探すために教室を物色する少年を目で追いながら、暁久は一人拳を固めた。 ほどなくして少年が選んだのは髪を脱色しきった、目つきの悪い生徒だった。 (よりにもよって、いかにも不良です、みたいなやつを選ばなくても…) 暁久は急に頭が重くなり、俯いて額に手をやった。 知らずうちに眉間に皺が寄っている。 ため息を吐かなかっただけでも誉めてもらいたい。 少年はやる気のようだが、対する脱色した頭のほうは面倒臭そうに教室の中央へ歩み寄っている。 「俺に勝てると思ってんのかあ?舐められたもんだぜ」 そう言って舌打ちをする。 誰の目から見ても少年が勝てるとは思えなかったが、本人に怯んだ様子はない。 暁久には、せめて大怪我だけはしないでくれ、と祈ることしかできなかった。 近くでタバコをふかしていた生徒が始めの合図を出すと、勝負は始まった。 少年は果敢にも拳を振り上げ相手に向かうが、そんな素人臭い動きに殴られるほど、脱色の男も間抜けじゃなかった。 「たくっ…、うぜえ役割だせっ」 男は愚痴ると、丸わかりな少年の拳を避け腹に拳を叩き込む。 声もなく息を止めた少年はそのまま後方へ飛ばされ、壁に背中を打ち付けられた。 「大丈夫か…!?」 暁久が叫び駆け寄ろうとしたとき、少年の脇にあった机の山がぐらりと揺れる。 「危ない…!」 倒れる――と思った矢先、暁久は少年を庇うように体を滑りこませ。 その上に、積まれていた机が雪崩のように落ちていった。 [しおりを挟む] 戻る |