「お前がねえ…。良いぜ、仲間にしてやる」 少年を上から下まで面白そうに見回した男は、にやりと笑ってそう言った。 「ちょっと真行地さん!?」 それに慌てたのは後ろに控えていた不良達だ。 男のものだろう名前を呼び、いかにもやわで細っこい少年を入れさせるなど、冗談ではないと躍起付く。 暁久も同感だ。 いくらチームの一員になりたくとも、馴染むことなど到底不可能に思えた。 だが周囲の反対する姿に怯む様子もなく、少年は目に堅い意志を宿し男をひたと見つめていた。 そんな少年に男が告げる。 「ただし条件がある」 口端を吊り上げ深い黒色の目を細める男は、含み笑いを見せる。 その野生的な笑みが消えると同時に残酷な決断を下した。 「ここにいる誰か一人で良い。ケンカで勝ってみせろ。そしたらお前をチームに入れてやるよ」 「…! 無茶言うなよ!」 少年がなにか言うまえに男に食ってかかったのは暁久だった。 こんな線の細い一年生が上級生に勝つなどできるはずがない。 ケンカは相手に怪我を負わせるだけじゃない。殴った本人もその拍子で骨を傷めたり、爪が剥がれたりする。 初心者がいきなりケンカをすること自体、とても危険な行為なのだ。 それをやってみろというのは聞き捨てならなかった。 自分達のリーダーに意見する暁久へ唸り声が上がったが、気にとめるまでもない。 不良だろうが荒れくれ者だろうが、彼らは異質の空気を纏う男と違い、ただの高校生でしかないのだから。 男が剣呑な眼差しで暁久を見やる。 「簡単にチームに入れさせるわけねえだろ。入りたいんなら覚悟を見せろ。それだけのことだ」 「それだけって…」 全身に綺麗な筋肉がついており、いかにもケンカ慣れしている男は容易く言ってのけるが、素人にとっては易々とできることではない。 この場にいるのはほとんどが三年生。 運良く二年生と当たれたとしても、まだ体のできていない少年が勝てないのは火を見るより明らかだ。 本郷のことは関係ない。 そんなケンカを見過ごせるほど、暁久は冷淡ではなかった。 男と話していても仕方がないと、少年を説得するため華奢な肩に手をかける。 その直後、少年の肩が怯えたように大きく跳ねた。 「…ッ…!触らないでください…!」 大袈裟なほど勢いよく手を払いのけ、少年はきっと暁久を睨む。 そんな少年の反応に驚いて目を見張るが、掴まれた肩を押さえるさまはどこか怯えているようだった。 暁久はふと違和感を覚える。 (なんだ…?) 気が強いのかと思えば、なにかを耐えるように顔を歪ませている。 体に触れられたくないのなら手が届くまえに避ければ良かったのにそうしなかった。 神経を逆撫でするような感覚に眉を寄せている一方で、二人を間近で見ていた男だけが目を細める。 暁久も少年も気付いていなかったが。 [しおりを挟む] 戻る |