「生徒会副会長として警告にきました」


雑誌で見るままの人を魅了する笑みを浮かべる暁久に、モデルとしての姿を知っている何人かは息を呑むが、続く言葉にたちまち顔色を変えた。


「旧校舎に集まるのを今後一切やめてください。喫煙も厳しく取締ります。俺達はまだ未成年ですから」
「ふざけんなてめえ!」


先程の金髪が声高に叫ぶ。

当たり前の反応だ。
生徒会役員が交代するのと同時に、これまでの自由を奪われるのだから。

しかし彼らとてまだ未成年。喫煙は法律上禁止されているし、それを誘発しているのなら人目のつかない旧校舎でたむろするのも見過ごすことはできない。

彼らがタバコを吸おうが学内の風紀を乱そうが暁久にとってはどうでも良いが、ほうっておけば本郷がうるさいし、何よりこれで不良チームが解散すれば暁久の功績となり次の学内ランキングの発表時では順位が上がっているかもしれない。

そう考えるとやる気も入る。


密かに企む暁久だったが、金髪の生徒に胸ぐらを掴まれてわずかに顔が歪んだ。


「てめえ二年だろ!年下が生意気に俺らに指図するんじゃねえよ!!」


暁久をきつく睨む金髪の生徒の手元で、暁久のワインレッドのネクタイが揺れる。
学年ごとに色の違うネクタイは、暁久が二年であることを示している。
ここにいる不良達はノーネクタイだが、一昨年から旧校舎に溜まり始めたことからしてほとんどが三年なのだろう。

苛立つ彼が手を出そうとしたが、それを止めるようにあの低い声がかかった。


「待てよ柴田。そいつに手を出すな」


心の底まで見透かすような深い黒曜石の瞳が、暁久を射抜いていた。
気圧されそうだ。しかしそんなことを認めたくなくて、暁久は対抗するように眼差しに力を込めた。


「モデルなんだろ?」


男はソファーから立ち上がり、こちらに近付いてくる。離れていても存在感があり背が高い。けっして低くはない暁久でも10センチは見上げる位置に顔があった。


「好きだぜ、その顔。…その度胸もな」


ニヤリとした笑いにまたぞくりとした。
見透かされてる…。
そんな気がして。

手を伸ばす男の指から動くことができなかった。
近くまで歩み寄った男に顎をなぞられ、上向かされる。


(目が離せない…)


頭の中で警鐘が鳴る。
このままじゃいけない。
それなのに動くことができなかった。
男がさらに距離を詰め爪先同士がぶつかる。

唇に息がかかった。


(あ…)


キスされる…と思われたが、それは後ろから聞こえた高い声に阻まれた。


「そこどいてもらえませんか?」
「、はあ?」
「…え、」


男が先に現実にかえり、跳ね上がった声を出す。
うまく動かない頭でやっと状況を理解した暁久は、思わず背後にいた人物を見つめてしまった。



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