建前なんてそんなもの 3

「さむい。」
「さっき出て来たばっかだろうが。」
「でも、寒い〜〜〜〜〜!!!」

誘われて出て来たのに、当の本人が出発30分でもう音を上げている。
湊は苦笑いながら、森山のマフラーを解いた。

「ちょ、さ、さむい!!」
「はいはい。」

手早くそれを取って、今度は自分がしていたマフラーと交換する。

「私のは、ストールも兼ねてますから分厚くてあったかいですよ。」
「…ん。」
「湊、甘やかすなよ。大抵それ、森山の首に巻いてんじゃねーか。」
「うるせ。湊は俺を甘やかすようにできてんの。」

笠松の言葉に、森山がべっと舌を出しながら答える。
いらっとした顔で頭を殴られ、いたいいたいと一頻り騒いだ後に森山はそっと湊の手を取った。

「なんだよ、いいだろ別に。」
「うぜえ。」
「見せつけてくれるな。」
「湊は俺の彼女なの!」

ぎゅう、と手を強く握りしめると、湊は困ったように笑った。

「いいのかよ、お前。」
「まあ、いつもの事ですから。」
「じゃあ、俺反対側手繋いでほしいッス!」
「あ、ばかやめろ!俺とのイチャイチャ時間を邪魔するな!」
「湊さ〜ん…」
「はいはい。」
「湊!」
「やったー!」
「つか、他の奴がいるとこでそれを求めるなよ。」

ぎゅう、と反対側をしっかり占領した黄瀬を引き連れてまた散策へ歩く。
近くには大きな神社があって、その前の通りは石畳の脇に店が軒を連ねている。

「腹減った…」
「あ、お饅頭売ってるよ。」

早川がじっと店を凝視しだしたので、そこで一服いれることにした。
和風で外に朱の敷物が敷いてある長椅子がいくつか置いてある和菓子店だった。
7人はそこを占領してメニューを顔を突き合わせて覗き込んだ。

「どーしよっかなー。」
「俺、饅頭かな。」
「俺は、みたらし団子。」
「俺もそうします。」
「(俺)、こっからここまで!」
「俺も!」
「充洋くんも涼太くんも、ごはん前だからもう少し絞ろうね。」

湊に言われ、結局2人でいくつかを頼むことにしたらしい。
湊は笑いながら店員を呼び、それぞれの注文と自分の分の甘酒を頼んだ。

「湊、甘いもの苦手だったっけ?」
「え?」

小堀からの問いかけに、少し首を傾げる。

「これだけ和菓子が並ぶのに、わざわざ甘酒なんて。…あ、もしかして、和菓子苦手?」
「いえ、そんなことないです。」
「じゃあ、何で甘酒チョイスなんだよ。」

笠松にまで言われ、湊は困ったように笑った。

「まあ、気分ですよ。」
「?」
「お待たせしましたー」

ちょうどやってきた和菓子をそれぞれ受け取る。
当たり前だが、黄瀬と早川の前には沢山の皿が並んだ。

「すげー!!」
「いっただっきまーす!!」

ハイペースで食べ進めていく二人に、湊は笑って甘酒を啜った。

「……ああ。」
「どうした、小堀?」
「俺、わかった。」

にこっと笑った小堀に、湊も笑みを返す。

「どういうことだ?」
「まあ、見てろって。」

訳知り顔で緑茶を啜る小堀に、笠松は首をかしげた。

それぞれ自分の頼んだものも平らげ、口直しにと塩昆布を齧っていた時。
湊の服の裾を、黄瀬が小さくつまんだ。

「湊さん、」

おずおずと差し出された小皿の上には、数種類の和菓子が詰め合って乗っていた。
湊はくすくす笑うと、それを受け取った。

「くれるの?ありがとう。」
「う、すみません…」
「どうして?嬉しいよ。」

全て感付かれている事を前提に巡らされるその会話に、やっと笠松も合点がいったようだ。

「黄瀬…お前な」
「だ、だってぇ」
「あら、涼太くんは甘酒しか頼まなかった私に和菓子を“分けてくれた”んですよ。」
「……わあったよ。」

湊の言葉に、笠松は溜息をついて話を切り上げた。
黄瀬は申し訳なさそうにしながらも、自分より二回り以上小さい湊の影へ縮こまるように隠れた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

全て食べきった早川が落ち着くのを待って、一行はまた寒空の下を歩き出した。
向かうは、ここらでも有名な大きな寺社だ。

「わあ…!」
「やっぱでけえな。」

堂々たる門構え、両端には厳めしい表情の木彫り像が並ぶ。
背の高い黄瀬や小堀だって、縦に裕に3人は並ぶであろう高い門を見上げて、湊は息をついた。

「荘厳、ですね。」
「ああ。」
「門を造る木々にも、歴史を感じるよ。」

門を通り過ぎると、石畳が連なり、両端には手洗い場や授与所が並ぶ。
参拝者も多く、雪道の中を皆右へ左へ行き交っていた。

「人が多いな。」
「はぐれるなよ、黄瀬、早川。」
「ハイっす!!」
「何で迷子決定なんスか!!それくらい平気ッスよ!」
「お前だから心配なんだろうが。」
「早川も、そんな元気に返事返すなよ。余計心配になんだろ…」

賑やかなメンバーを笑顔で見守りながら、更に奥へと進んでいく。
内宮の前には銅作りの窯があり、中では線香がもくもくと煙をたてている。

「黄瀬、煙浴びとけよ。賢くなるぞ。」
「本当ッスか!!」
「もう頭ごとツッコんどけよ。」

学年末試験、どうにか赤点だけは避けたいッス!と言いながら本当に頭を突っ込んでいる彼を、一体誰が世間で引っ張りだこのモデルだと思うだろうか。
今回もテスト前の勉強会はやらなくてはならないのだなと、湊と中村は目を合わせて小さく溜息をついた。

「ほら、テスト前の願掛けはそれくらいにして。お参りに行くぞ。」

小堀が黄瀬のフードを引っ張って窯から引きはがし、揃ってお参りの列へ並んだ。
話をしながら数分並び、順番が回ってきた。
黄瀬や笠松たちと一緒に並ぼうと最後の階段へ足をかけたとき、後ろから腕を引かれた。

「?」
「湊」

一段下にいる森山に手を握られ、不思議に思いながらも、また足を戻す。

「どうしたんです?」
「5人も6人も並んだら狭いだろ。もう一列後ろにしよう。」
「はあ…」

言われるがままに隣へ並び直し、他のメンバーが退いたところへ二人で収まった。
賽銭を投げ入れて、二礼二拍手をしっかりまもって目を閉じる。

ここへ辿り着くまでに色々願い事を考えたけれど、湊の願いは無難なところへ着地した。

「(…これからも、7人仲良くすごせますように。)」

どうぞよろしく、と付け足して顔を上げる。
列から出ようと隣を見るが、森山が未だに手を合わせているので通れない。
とりあえず終わるのを待つか、と森山を見上げた。

湊のストールへ顔を半分埋めて目を閉じる姿は、確かにきれいだった。

「(本当、外見は抜群にいい、んだよな。)」

ふう、と吐き出した息が白く消える。
それを合図にするようにゆっくりと目をあけた森山は真面目な表情で閉じた格子の向こう側を一瞥してから湊を笑顔で見下ろした。

「行こうか。」
「…はい。」

ゆるりと取られた手を小さく握り返して、列を出た。

mae ato
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