建前なんてそんなもの 2

飽きるほどにトランプを続け、湊と笠松以外が微睡んでしまった頃。
電車は第一目的地に到着した。

「あ、ついたよ。涼太くん起きて。」
「んぅ…ええ?もうッスか…?」
「目的地が電車な訳じゃないんだから…」
「お前らも起きろ。まだいくつか路線乗り継がなくちゃいけねえんだから。」

寝ていたメンバーを叩き起こしてやっとこさ電車を降りる。
ホームから電車がいなくなってあたりを見回すと、湊は思わず目を見開いた。

「わあ。」
「こりゃ冷えるわけだわ。」

温泉地というのもあり、あたりは一面雪景色が広がっていた。
さっきまで眠そうにしていた黄瀬も、寒さと降り積もる雪に一気にテンションがあがる。

「わあ、センパイ雪っス!雪ッスよ!」
「見りゃわかる…」
「(森)山さんは完全に寒さにや(られ)てますね!」
「充洋くんは本当にいつでも元気だね。ほら、由孝さんしっかり。」
「ん゛ん゛…」

さっきまでひざかけに使っていたストールを森山の首へ巻いてやる。
もぞもぞとそれに顔を埋めた森山は、幸せそうに少しだけ目を細めた。

「ほら、さっさと行くぞ。さみい。」
「はいはい。さ、行きましょう。」

先導はいつだって笠松、最後尾を歩くのも変わらず湊だ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「でかいッス!!」」

途中で道を尋ねながらようやくたどり着いた旅館に、黄瀬と早川は口を開けて言った。

「確かに…思ってたよりもずっと立派だ。」
「何でこんなとこ…?」
「私、賭け事は結構得意なんです。」
「「「え?」」」
「さ、入りましょう。」

何やら不審な言葉が聞こえてきたが、3年組は顔を見合わせてから何も聞かない道を選んだ。
チェックインを済ませ、部屋の鍵を貰う。

「部屋は全部で3つ。1つは3人部屋で、残りは2人部屋だ。」
「俺どこでもいっすよ。」
「…珍しいな。お前が一番ごねるかと思ってた。」

黄瀬の言葉に、笠松が何か裏があるのではと眉を顰める。
向けられた言葉に、当の本人はきょとんとした表情で首を傾げた。

「別にどこでも良いッスよ?相手は先輩たちの誰かなんだし。」

モデルをしている関係もあって、パーソナルスペースは極端に広い黄瀬。
だが、一歩そこを踏み込ませると、とことん懐いてくる。
黄瀬がこの場でごねないのも、彼がこの6人に気を許し切っている証拠だ。

「…あ、そ。」
「笠松、照れるなよ。黄瀬のあれは今に始まったことじゃないだろ。」
「うるせえ。湊は?」
「私もどこでも平気ですよ。」
「そこは俺とが良いって言ってほしかった。」
「私だけ我儘言うわけにはいきません。」
「できた彼女だな。」
「お前には本当勿体ねえわ。じゃ、くじでいいな。」
「さらっと挟んでくるなよ…」

時々入れてくる笠松と小堀のジャブを食らいながら、手帳にあみだを書き込んでいく森山。
下を折り返して、それぞれ線を足していく。

「全員大丈夫だな?」
「おー。」
「平気。」
「恨みっこなしだ、いいな。」
「ハイっす!」

全員で頭を突き合わせて部屋わりを覗き込む。
1つずつなぞっていき、3部屋の行先が決まった。

「俺はあたりだな、中村よろしく。」
「こちらこそ、笠松先輩。」
「湊は俺とだな。」
「はい、ご迷惑にならないようにしますね、浩志さん。」
「完全に俺らんとこ煩いけど、いいの?俺はいいけど。」
「両隣が俺たちだから、まあ、ある程度は。」
「周りには迷惑かけるなよ。」
「森山センパイと一緒ッス!」
「まく(ら)投げしましょ、まく(ら)投げ!」
「っしゃー!3年生の意地見せたらあ!」

それぞれ決まった部屋へ、一度荷物を持ってあがることにした。
部屋はそれぞれ連番なので、誰かと一緒なら迷うこともない。

「ふ―――、結構長かったなぁ。」
「お疲れ様です。」
「湊もな。」

へらりと笑う小堀に、なんとなく安心する。
彼の笑顔には、そういう力があるのだ。

「でも、本当によかったのか?森山と一緒じゃなくて。」
「ええ。由孝さんだって、本当に誰とでもよかったと思いますし、今回の割り振りも願ったり叶ったり、かもしれませんよ?」
「?」

畳へ座って自分の荷物開きをしていた小堀が、顔を上げて首をかしげる。
自分の所の男性陣は、がたいが良いのにあざとい仕草をするものだ。
湊は密かに思いながら、小さく笑った。

「由孝さんは後輩が好きですからね。特に、よく懐いていたあの2人はお気に入りだったみたいで。」
「ああ、それは確かにそうだな。」
「きっと楽しくやってますよ。」

共に過ごす時間と比例して保護者ポジションが確立されつつある湊に、小堀は小さく溜息をついたあとそっと近づいた。
後ろからとん、と湊を間に挟むように壁に手をつく。
湊はさして驚いた風もなく、首だけで小堀を見上げた。

「何ですか?」
「湊は、少し俺たちに対して警戒心が薄すぎるよ。」
「警戒心?」

聞き返してきた湊に、小堀はすっと目を細める。

「俺たちだって、いくら気心が知れているといっても男だ。湊は、その中に女の子1人。」
「そうですね。」
「俺たちがその気になれば、湊はあっという間に好きにされてしまうんだよ。」

鞄を漁っていた湊の手に自分の手を重ね、床へ縫い付ける。

「いくらお前が女の中じゃ背が高いとはいえ、俺たちはタッパはある。」
「…」
「そんなハンデなんて、あってないようなものだ。」

脅すように手に更に力を籠める小堀に、湊は余裕を崩さない笑みで言った。

「確かに、するのは簡単ですけど。貴方たちはそうはしないでしょう?」
「わかんねーぞ。」
「私を襲う事は、私と由孝さんの信頼を裏切る行為に同義です。」
「……」
「私たちとの絆と天秤にかけた時、浩志さんたち5人にとって私にそれ以上の価値があるとは到底思えません。」

そうでしょう?とにっこり笑う湊に、小堀は困ったように笑って手を離した。

「まったく、困ったものだ。」
「私が無防備なのは、うちの6人に対してだけですよ。」
「うん。そうしてくれ。」
「兄さんたちに、何か言われました?」
「『釘をさしておけ』と。自分たちが言っても、お前はきかないからってな。」
「ふふ、やっぱり。」

全て湊にはお見通しだったようだ。
小堀が小さく溜息をつくと、湊は笑みを崩さずに言った。

「緊張、しました?」
「生憎俺はこういうのは慣れてなくてな。…本当向いてない。」
「目が泳いでましたよ、浩志さん。」
「マジか。」

やっぱダメだなあ、なんて言い合っていると笠松と中村が2人を呼びに来た。

「まだ風呂には早いし、飯まで時間もある。散策に出ようかと思ってんだけど、お前らどうする?」
「行きます。」
「ちょっと待って、マフラー、マフラー…」
「はい、浩志さん。」
「ああ、ごめん。ありがとう。」

受け取って首に巻き付けながら外へ出ると、既に森山たちは出ていく準備万端で4人を待っていた。

「遅いぞ!」
「早く行きましょう!」
「はいはい。」

ばたばた走っていく3人を小堀と2人で眺め。
目を見合わせてまた笑ってから、やはり最後尾を歩き始めるのだった。

mae ato
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