後夜祭はこれから

途中で別れてから、俺たちが湊、森山と会う事はなかった。
少し探しながら歩いてもみたが、一度も姿を見なかった。
もしかしたら、いつもと2人とも風貌が全然違っていたから気が付かなかったのかもしれないが、
まさか、次に見るのが舞台の上のあいつらだとは思わなかった。

湊に手を引かれて檀上へ上がり、ゆるく微笑んだ湊に少し照れた表情を向ける森山。

「…いたたまれねぇ。」
「俺も。」

顔だけはいい奴だと思ってはいたが、同い年の男のあんなふやけた表情見たくなかった。
どんだけ湊が好きなんだ、あいつ。
小堀と2人並んで座りながら、思わず顔をしかめた。

だが、俺たちの驚きはそこで終わらなかった。

檀上での突然の湊からの告白。
森山の涙声。
今日一番の盛り上がりを見せる会場。

クラスに戻って勿論あいつらはかなり絡まれただろうが、俺たちだって例外じゃなかった。

「男バスのあれやばいな!」
「あそこまで計算済みだったのかよ、笠松スゲェな!」
「あれには負けるわー、マネージャーちゃんのクオリティやべえだろ!」

俺たちはただ苦笑うしかなかった。




これが、つい3日ほど前の話。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「で?これは一体どういうことか答えてもらおうか。」
「…」
「今なら言い訳も聞いてやる。」
「聞くだけだけどね。」
「「……」」

昼休みにいつものように集まった俺たちは、1枚の紙を手に森山と湊へ説教モードだった。
おろおろする早川と中村を小堀があやしているが、あいつも俺を止める気はないようだ。
黄瀬は騒ぐつもりもないらしく、おとなしく弁当を食い進めている。

「これ、俺たちと別れた後だな?」
「…はい。」
「問題は起こすな。お前が森山や黄瀬たちにいつも言い聞かせてることなんじゃなかったのか?」
「……はい。」

紙の正体は、号外の海常新聞だ。
勿論、中身はついこの間やったばかりの海常祭。
優勝した湊と森山は大々的に取り上げられた。
それは別に構わねえ。

だが、新聞の裏面に組まれた2人の一部始終を抑えた写真たちに問題があった。
仲良くイチャイチャしてる(様に見える)写真に混じって、明らかに見逃せないそれ。

「何があって、お前は誰かも分からねぇ他校生の胸倉掴んでんだ。」
「…」

珍しく冷や汗をかきながら正座で俯く湊に、隣から森山が助け舟を出した。

「か、笠松、それ俺のせいなんだよ。俺が絡まれたのを湊が、」
「お前も一緒にいて何で止めなかった。」
「…仰る通りです。」

がっくりと肩を落とした森山に、深く溜息をつく。

「お前な。今回は出し物の一部だと思われてっからいいものを、バレたらえらい事になるんだぞ。部にも影響が出」
「笠松、上辺はいいから思うようにお説教していいよ。」
「怪我でもしたらどーすんだ、あんな格好だったがお前は女子なんだぞ。」
「本音はやっぱりそっちか…」

当たり前だ。
部長としての俺なら勿論部を一番に考えなきゃならねぇ。
だが、俺個人としてなら部なんかよりも大切な後輩の心配をするに決まってる。

「すみません…」
「一体何言われたんだよ。」
「特には。由孝さんが絡まれてたので、お茶の入ったペットボトルをほんの少しの殺意と共にぶつけただけです。」
「だけじゃねええええ!!!」

思わず出た手刀が、湊の脳天に直撃する。

「いたい…」
「痛くしてんだバカ野郎!たかだかそんな事に腹立ててんな!いつもの兄貴パワーの詰まったイヤリングはどうしたんだよ!!」
「あ、忘れてました。」
「何でこの時使えなかった…!」
「あはは、宮地の力も及ばずか。」
「小堀、笑ってんな。」

あまりにも自由なメンバーたちに頭を抱える。
湊はいつもは冷静でどちらかと言えば世話を焼く方の人間だが、突然タガが外れることがある。
大抵は、外す理由は俺たちや兄貴たち関連なのはわかったのだが。
如何せんそのリミッター解除の線引きがわからないため、毎回発動してから気が付くのだ。
しかも、外れたら手がつけられなくなることも多い。

「勘弁してくれよ、マジで…」
「すみません。」
「…分かったなら、」
「次からは、ボロは出しません。」
「そうじゃねぇええええええ!!!」
「あははははは」

俺は一体いつまでこいつらの面倒を見続けなきゃならねぇんだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

笠松さんから長々とお説教を食らって、教室へ戻った。
足が痺れて痛い。

「大丈夫か、湊?」
「うん、平気…」
「お前が悪い。」
「分かってるよ…」

ギリギリまで一緒にいる充洋くんと真也くんと話をしていると、ふいに携帯が光った。
なんだろう、と開いてみると片割れからのメッセージ。

≪お前、学校で何やってんの。≫

何のことだ、と思ったが一緒に添付された写真をみて目を見開いた。
この間の、告白現場の写真だ。
私は慌てて返信した。

≪何で裕くんが持ってんの!?≫
≪うちのバスケ部で回ってる。一応、兄貴がレギュラー内だけで押し留めてるけど。≫
≪どういうこと、出所は?≫
≪さあ?≫

この後の言葉に、昼涼太くんが何故あんなに静かだったのかを知った。

≪緑間が持ってたけど。≫

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…」
「……」
「………」
「何でこうなってるか、わかるよね?」
「…ちょっと分からなドンッ俺が写真キセキの皆に一斉送信したからですよねスミマセン!!!」

体育館の壁際に正座させられた黄瀬の顔の横へ一発蹴りを入れる湊に、慌てて謝罪を入れる。

「お前、どんだけばら撒いたんだよ…」
「だって、海常祭の話になって、どんな事したんだって聞かれたから…!」
「何でそこで俺たちをチョイスしたんだよ!!!」
「一番きれいに撮れてた写真が、2人の写真だったんスよ!」

ぎゃいぎゃいと煩い2人に頭を抱えていると、携帯が着信を知らせる。
ポケットから出したそれには、でかでかと兄の名前が映し出されていた。

「…は『おい、どういうことだこれは。』…清兄。」

不機嫌丸出しでぶつけられた声に、湊は溜息をついた。

「何が?」
『緑間の携帯に送られてきた写真だ、裕也から聞いてんだろ。』
「…海常祭の写真だけど。」
『んな事はわかってんだよ。俺が聞いてんのは、何でお前が森山の足元へ跪いてんだってことだ。』
「……よく由孝さんだって分かったね。」

自分は間近で見ているため、あの写真が誰を写しているのかすぐわかったが
何も知らない人が見たら、湊はともかく姫が森山であることは分かるだろうか?

『お前と話すことは今日はない、今日はな。森山出せ。』
「2回言うなよ。」

言いだしたら聞かないのも、この17年で分かっているので仕方なく森山へ携帯を向けた。

「ん?」
「兄からです。」
「…ちなみに、どっちの。」
「めんどくさい方から。」

湊の言葉を聞いた途端に顔を思い切りしかめた森山は、いらないとジェスチャーで返す。
が、ここで変わらなければ自分が被害を被る。
半ば押し付ける形で森山へ携帯を手渡し、隣で聞く体勢に入る。

「…はい。」
『森山か。』
「そうだけど。」
『テメェ、他人んとこの妹に何させてんだコラ』
「学祭の出しものだろ…女装させられた俺よりずっとマシだろうが。普通に似合ってたし。」
『俺の湊は何着ても似合うように出来てんだよ。』
「お前のじゃねーよ。」

げんなりした表情で清志との応答を繰り返す。
そっと耳を寄せた湊に、自分も少しかがんだ。

『あれどういうことだよ、説明しろ。』
「部長命令で、コンテスト1位狙ってた。無事1位が取れて呼ばれた檀上でいろいろあって、お前の妹と付き合う事になった。」
ブッ飛ばす
『ちょ、宮地さんどーしたんスか!』
『止めんな高尾。大坪ー俺用事抹殺しなきゃならねえ奴が出来たから神奈川行ってくるわ。』
『落ち着け宮地!』
『しっかりしろよ兄貴…』

森山の一言に、秀徳サイドが騒がしい。
少し待ってはみたものの、ちゃんとした返事が返ってくることは無い事を悟ると
森山は通話を切った。

「ん。」
「…別にわざわざあんな火に油注ぐ言い方しなくてもよかったのに。」
「いつかは言わなきゃならないことなら、喧嘩するつもりで行く。」
「え?」

どちらかと言えば平和主義な森山から放たれた言葉に、湊が首を傾げた。

「どういう事です?」
「…どうせ、あいつは俺に湊をあっさり渡すつもりはないんだ。なら、思い切りぶつかるつもりで行く。こればっかりは、下手に出るようなやり方で譲ってもらう気はない。」

くしゃりと湊の頭を撫でながら、これからを思って浅く息をついた。

...To be continue?

mae ato
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