笑顔でさよなら 2

特別棟を出て昇降口へ向かった俺たちは、そこで3人と再会した。

「あ!!」
「お前ら!」
「げぇ!早いッスよ!!」
「早川急げって!!」
「ま、待って、こ(れ)どうやってはめ(る)んだ…」
「貸せバカ!!」

今度こそ、と手を伸ばしたが、寸でのところで立ち上がった3人はそのまま学校を出て行った。

「ちょ、」
「お前らそれ…!!」
「反則だろ!!」
「ルールなんてありません!!」
「捕まらなきゃ、いいんスよー!」

やけに手間取っているとは思っていたが、あいつらが履いていたのはいつもの運動靴ではなく
やけに久しぶりに目にした、俗に言う「ローラーブレード」だった。

「それに足で追いつけってのかよ!!」
「(俺)たち、元々負ける気ないッスか(ら)!!」
「そういう問題かよ!!」
「ほら、再開しましょー!」

楽しそうに笑ってまた散り散りになった3人を、また追いかける。

「笠松、俺だめだ!早川譲って!」
「俺も早川向いてねぇわ、小堀、黄瀬と交代だ!」
「じゃあ、俺中村追おうかな〜」

まだまだ余裕を滲ませる小堀に比べて、俺も森山も階段のアップダウンが激しかったのもあり、大分キている。

「ゴールがあるって言ってたから、どうせ行きつく場所は一緒なんだろ!」
「またあとで、ってことでいいか?」
「ああ、じゃ、健闘を祈る!!」

またバラバラになって後輩を追うが、街中を全力疾走する自分に少し冷静になる。

「…俺たち、卒業式の日に何やってんだ…」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

正攻法で行ったって、コロコロ()に勝てるわけなんてない。
人間はそういう風に出来てんだ、俺は学んだ。

幸い、相手が入れ替わって早川になった。
普通に追いかけちゃ間に合わねえけど、あいつ相手ならどうにでもなる。

丁度、逃げた方向は大きな公園がある。
俺たちがよく入り浸っていたストバスコートのある公園だ。
確かにあそこなら思いっきり走れるだろうし、他に迷惑がかかることもない、地形だってわかってる。
あいつは、本当にいい子だ。

「だけど…バカなのは本当変わんねーな!!」

公園の入り口で急停止したあいつは唖然としていた。
かかった…!!

「こっち側からは階段あがんねーと入れねえよ!!」
「ッ」

どんどん縮まる距離に、あいつは俺と足元を見比べた後決心したようにブレードに手をかけた。
まさか、とは思ったがそのまさかで。
がちゃがちゃと乱暴にそれをいじったあいつは、階段下でブレードを脱ぎ捨てて走り出した。

「はあああ?!」

裸足で俺の前を行く早川を、仕方なくブレードを拾ってまた追う。

「おい、バカ足怪我すんぞ!!」
「靴下あ(る)んで大丈夫ッス!!」
「お前靴下信じすぎだろ!!」

何をそんなにマジになってるんだと疑問に思っていると、通い慣れた道だからか
やはり行きついたのはコートだった。
ここがゴールなのかとも思ったが、あたりを見回しても誰もいない。

「ここじゃねえのか…」

早川に目を戻すと、がしゃりと音をたててコートへ入っていくところだった。
中から開かないようにぎゅっと扉を握りしめる早川に、思わず笑った。
コートは確かに開かなければ捕まらないかもしれないが、袋の鼠だ。
他に出口はない。
俺は走るのをやめて、呼吸を整えながら寄って行った。

「もう終わりにしようぜ…早川!」

がしゃりと扉を外側から引っ掴んでにやりと笑うが、フェンス越しに覗き込んだ表情に思わず言葉を失った。

「…早川?」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「何で小堀さんになってるんですか!!」
「笠松と交代したからかな〜!」

笠松さんなら、捕まらないままゴールする自信があった。
どれだけ長期戦になったとしても、今はブレードがあるし後ろを振り返りながら逃げる余裕だってあったはずだ。
なのに、誤算だった。
先輩たちが、標的を入れ替えるなんて。

「どうせ、森山さんが、音を上げたんでしょう!!」
「はは、よくわかってるじゃないか!」
「本当あの人は!!!」

小堀さんは、頭の回転も速いし何よりバテ知らずだ。
一定の速度を保って追いかけてくるので、精神的に追い詰められる。

「なあ!そろそろ降参しないか!」
「嫌です!!小堀さんが諦めればいいじゃないですか!!」
「あれ、諦めていいの?お前が湊に何か言われるんじゃないのか?」
「やっぱり困ります!!」

走りながら携帯を確認するが、まだ連絡はない。

「っくそ、まだか湊…!」
「なーかむら。」
「!!」

聞こえた声は、思っていた以上に近くて。
反射的に振り返ったら、すぐそこに小堀さんがいた。

「そろそろ、おしまいにしよう。」

マジが入ってきて目が笑っていない。
よく森山さんや黄瀬にこの顔をしているのは見るけれど、自分が向けられるとは思ってもいなかった。
こんなに恐怖を煽られるものだったなんて。

長い腕が俺の上へ影を作ったので、慌てて脇をすり抜ける。
小堀さんを抜けて、ほっとして気持ちが緩んだ。
背中を向けたときこそ、気を抜いてはいけなかったのに。

体勢を整えた時に、振り返った小堀さんの手に捕まった。
がっしりと握りこまれたブレザーが苦しい。

「ぐっ」
「捕まえた。」

振り返った先には、ぞっとする表情で俺を見下ろす小堀さん。
びくりと思わず肩を跳ねさせると、きょとんとした後いつもの笑顔を浮かべた。

「俺の勝ちだな。」

にっこり、人当りのいい笑顔に負けたのに安心してしまう。
ポケットで携帯が震え、首根っこを捕まれたまま確認すると、湊からのゲームセットの報せだった。
もう少し早く終えてほしかった。
溜息をつくと、うしろから画面を覗き込んだ小堀さんが首を傾げる。

「湊?」
「ゲームはここまでですね。」

ポケットへ携帯を戻して、ブレードのまま道を戻り始める。

「俺の負けです。行きましょう。」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

思ったよりも用意に手間取ってしまった。
3人に一斉送信でメールを送って、マンションの前で6人を待つ。
近くにいるから、すぐに着くと返事をくれた真也くんが一番に到着した。

「湊。」
「お疲れ様、浩志さんと一緒だったんだね。」
「うん。捕まっちゃった。」

困ったように笑いながら言う真也くんにこちらも笑い返すと、向こうからまた違う声。

「あっ、ほら、湊だぞ!早川!お前の大好きな湊だぞ!!」
「「…?」」
「あれ、森山。」

酷く慌てた様子で充洋くんの手を引きながら現れたのは由孝さんで。
同じように「おつかれ」と迎えるつもりだったのに、見えた光景に言葉が詰まった。

「何でそんなぐずぐずに泣いてんだ…?」
「てか、なんで裸足!?」
「ごめん、履かせようと奮闘したんだけど、手離れなくて。」

180オーバーの男子高校生が、同じく180オーバーの男子高校生に手を引かれているのは
やけに目をひいた。
慌てて寄って行くと、由孝さんの手を握るのとは反対の手で私の手を強く握った。

「充洋くん、しっかり。」
「湊…」
「はいはい。」

濁点のつきそうな声で名前を呼ばれ、あやすように肩をさする。

「あ。」
「?」

中村くんの声に振り返ると、すごい至近距離に綺麗な黄色。

「え。」
「湊さん!!!」

ブレードの速度をそのままに突っ込んできた涼太くんの突進をモロに受けてぶっ倒れた。

「黄瀬エェェェエエエエ!!!」
「助けてくださいッス!笠松センパイ捕まえらんなかったからってガチな顔で追いかけてくるんス!!…って、早川センパイなんでもう泣いてんスか!?」
「テメェわざと商店街逃げ込んだろ!」
「だって、そうでもしないと逃げきれないと思って!」
「今日なんとかって言うアイドルグループのライブじゃねーか!!女子ばっかわらわら集まる所歩き回りやがっ…早川!?」

幸男さんも慌てたように充洋くんへ寄って行って心配そうに顔を覗き込んだ。
ぎゅっと握られた手に、由孝さんを責めるような目で見つめた。

「お前…何したんだよ。」
「何もしてねーよ!!ただお前らと同じように追いかけっこしてたら、急にぼろぼろ泣き出して…!」
「とりあえず、入りましょうか。ほら、充洋くん大丈夫?」

私と由孝さんに手を引かれて、ゆるゆる歩き出した充洋くんを連れて、7人で見慣れたエレベーターへ乗り込んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「で、何だったんだ?」
「無意味に俺たちにこいつらを追わせたわけでもねぇだろ。」
「勿論そうですけど…」

家に近づくにつれていい匂いが漂ってくる。

「腹減ったな。」
「確かに。大分走ったしなぁ。」

3人の言葉に、小さく笑ってドアをあけた。

「折角なんで、ささやかですけど卒業パーティでもと思ったんですけど…」
「え?」
「本当はどこかで外食して戻ってくるつもりだったんです。でも、3人が私が用意した方がいいってしきりに言うので…すみません。」
「いや、むしろ願ったりかなったりだけど…」
「よかったです。みなさんは先に手を洗ってリビングへ行ってください。とりあえず、充洋くんの足洗わないと。怪我でもしてたら大変です。」

言われた通りにメンバーたちが上がって行ったので、2人残された玄関でそっと早川を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「……ごめん。」
「ん?」
「逃げ、き(れ)な、かった。」
「いいよ、時間稼ぎは十分だったし。」
「…そうだけど、ちがう。」
「?」

やっと落ち着いてきたのに、またじわりと涙を浮かべる早川に慌ててタオルを持ってくる。

「どういう事?」
「…お(れ)、本当だった(ら)、遠くまで逃げて、捕ま(る)つも(り)だった。その方が確実に、戻ってく(る)までの時間を稼げ(る)と思ったか(ら)。」
「思ったより考えて鬼ごっこしてたんだね…」
「でも、逃げて行きついた先は、いつも7人で寄ってた公園で…足が、階段をあが(ろ)うとす(る)んだ。何でって、自分で思ったときには、すぐ傍まで、(森)山さんが来てて…」
「…うん。」
「意地でも、捕ま(れ)ないって思った。だって…ッ」
「充洋くん…」

くしゃっと顔をゆがませた早川がぎゅっと目を瞑ると、大粒の涙がこぼれた。

「捕まった(ら)、そこでお(れ)達と先輩たちの時間は終わ(る)…!!」

ぼたぼた涙を零し続ける早川に、湊は数度瞬きしてから笑った。

「少し離れるだけだよ。ほんのちょっと、道を外れるだけ。」
「湊…」
「同じ道を歩くなんて、誰にもできないんだよ。今までも、たまたま私たち7人の道が重なってただけ。」
「……」
「でも、7つの道をもう一度同じ場所に引くことはできるよ。だから、今だけ。ね?」
「…ん。」
「いいこ。」

ふふ、と笑って涙でぐしゃぐしゃの顔を拭ってやる。

「ほら、足洗ってリビング行こう。折角頑張って作ったんだから、あったかいうちに食べて欲しいよ。」
「湊の手料(理)…」
「ケーキもちゃんと昨日から作っといたか「ケーキ!!!」…もう。」

ばたばたと風呂場へ走って行った早川にあきれながらも、早川らしいと微笑んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うま!」
「やっぱ湊料理の腕あげたな。」
「そりゃあ、皆さんが来る回数が半端ないですからね。他人に出すのに下手なものは作れません。」
「最初は酷かったもんなぁ。」
「由孝さん、お箸置いていいですよ。」
「ごめんなさい!!」

いつも通りの賑やかな食卓。
一人暮らしの部屋が、一気ににぎやかになる瞬間。
この時間が、湊は何よりも好きだった。

オレンジ色のカップを持って、カウンターへもたれかかる。
少し離れた所から眺めるこの視界も、これで当分は見納めになるだろう。
1つ年上の彼らとの時間も。
引退しても3人は朝練も昼休みも何だかんだ集まっていたので、実感がなかったけれど。

朝、時間を忘れて練習に励む姿にかける声も、呼ぶ名前が減るだろう。
昼休みに作る輪は何周りか小さくなって、制服姿のまま走り回る影も半分になる。
自分が用意するドリンクの数だって、そろそろ慣れないといけない。

もう、部員に檄を飛ばす声だって聞こえない。
自分を優しく呼んでくれる声も、撫でてくれる手だって無くなる。

“湊”

彼らが思い出させてくれた“自分”を、これからは彼らなしで維持していかなければならない。

「(なんでだろう。)」

ただ、いつもの日常からたった3人、会わなくなるだけなのに。
どうして、こんなにも―――

「湊?」

呼ばれた名前に、はっとする。
未だに騒がしい中から、森山が振り返ってこっちを見ていた。

「すみません、ぼーっとしてました。」
「こっち来て一緒に座ったら?」
「…はい。」

ゆるく微笑んだ湊に、森山は少しだけ考えるそぶりを見せて財布をポケットへ入れて立ち上がった。
冷蔵庫へ向かうと、おもむろに扉を開けていった。

「あれ、お茶ねーじゃん。」
「えっ、そんな、さっき用意し」

慌ててカップを置いて寄って行こうとした湊に、森山が悪戯に笑う。

「悪い、俺ちょっと湊連れてコンビニ行ってくるわ。」
「ああ。」
「えー!じゃあ俺もッブ「行ってらっしゃい、森山。」こ、小堀センパイ痛いッス…」
「勝手に食っとくぞ。」
「はい、どうぞ…」
「いこう、湊。」

手を取られて、コートを着せられ家を出る。
エレベーターで1階まで降りた所で湊は首を傾げた。

「どうしたんです?」
「ん?」
「わざとでしょうけど、お茶はあったはずですよ。」

言うと、絡められた手をぎゅっと握られる。

「由孝さん?」
「湊、泣きそうだった。」
「え、」
「だろ?」

近くの公園へ入って、自販機で紅茶を買う。
1本を湊へ手渡して、植木へ並んで座った。
湯気のたつそれは、じんわりと手を温めていった。

「湊は、いっかいこの話してるから平気かと思ったんだけど。」
「そんなわけないじゃないですか。」
「そか。」

小さく微笑んで、空を見上げる。
湊は逆に目線を落として、ことりと頭を森山の肩へ預ける。
いつだったかのように驚きに揺れることはなく、そっとすり寄られた。

「寂しい?」
「…由孝さんは案外平気そうですね。」
「んー、寂しくないわけじゃないけど、あいつらとは大学もおんなじとこ行くの決まったし…それに。」
「?」

顔を上げると、至近距離でかち合う視線。

「『また同じ場所に道を引くことはできる』んだろ?」
「!」
「聞いちゃった。思ったより、早川が打撃受けてたことに驚いた。」

にっと笑った森山に、少しぬるくなったミルクティーを煽る。

「追われる方は、いつだって余裕が滲むもんだよ。」
「…すぐに追わせてみせますから。」
「こないだまで追ってたんだから、ちょっとくらい俺にも優勢を味わわせてくれよ。」
「私だって追ってたんで、お互い様です。」

空になった缶が、こつりと植え込みにあたって軽い音を鳴らす。
森山も自分が持っていた缶を振って空なのを確認すると、立ち上がった。

「そろそろ行こうか。あんまり遅くなると、向こうも心配だ。」
「そうですね。」

ひゅ、と何の気なしに投げた缶は綺麗に弧を描いて公園に設置されているゴミ箱へ消えた。

「しゃ。」
「流石です。」
「これでもSGだからな。」

満足そうに笑う森山に、湊も数度瞬きをして同じように空き缶を投げる。
先ほどと全く同じ軌跡を描きながら、それは見えなくなった。

「私も、SGです。」
「そうだったな。」

笑い合って、また家までの道のりを手を繋いで戻る。
エントランスに着いたところでロックを開けようとパネルへ手を伸ばす。
ロックを解除して、開いたドアに顔を向けた時。

「え」

ぐい、と引っ張られて目を見開いて、真っ暗な視界の次の瞬間にはすぐそこに整った森山の顔。

「好きだよ、湊。」
「ど、したんです、急に」
「あいつらと一緒じゃ、機会もないかと思ったから。」

いつもの気分屋であたふたした森山からは到底想像もできない大人な笑みを浮かべる。

「俺ね、お前のいう事って大人びてるし、どれも「なるほどな」って思うものばかりだった。」
「…」
「さっきの早川への言葉も、そう思ったけど。でも、1つだけ。」

ゆっくりと離れていった森山が湊の手を引いて言う。

「俺は、同じ道を歩くことだってできると思うよ。」
「え?」
「1つの道を、一緒に歩くことだってできると思う。」
「どういうことです…?」
「分からなくてもいいよ、今はね。」

それ以上は何も言わずに、5人が待つ家へ戻った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「お待たせー…って、」
「遅ぇ。」
「3人とも撃沈だぞ。」

黄瀬と早川は笠松と小堀に寝かしつけられたようで、爆睡。
中村もソファを背もたれに寝息を立てている。

「本当大変だったんだぞ。」
「急に酔ったように泣き出した黄瀬につられてまた早川も泣くし。」
「いつもは保護者枠の中村まで、卒業しないでくれって言いだすし。」
「「お前が、湊を連れていくから。」」
「ご、ごめん…」

手ぶらな2人を見て、笠松が黄瀬にブランケットをかけなおしながら溜息まじりに言う。

「お前、へたくそすぎだわ。もうちょっと自然に出ていけねえのかよ。」
「冷蔵庫開ける前に財布持っちゃダメだろ。」
「はは、やっぱり?俺もやってから思った。」

3人は、森山が家を出た理由を最初から分かっていたようだった。

「落ち着いたか?」
「幸男さん…」
「湊はこいつらの前じゃ、ずっとお姉さんだったもんな。」
「今は末っ子だろ?」

とん、と優しく背中を押され、ぎりぎりで耐えて来た涙が急に溢れて来た。
笠松と小堀へ走って行って力いっぱい抱き着くと、2人も強く抱き返した。

「今まで、世話になった。」
「無理やり引き摺り込んだけど、俺は湊と一緒に海常バスケ部に居られて、幸せだったよ。」
「お前がいたから、俺たちここまでやってこれたんだ。」

後ろから優しく頭を撫でられ、嗚咽がひどくて何も言えなかった。

「大変だろうけど、こいつらを頼むな。」
「俺たちはもう、ずっと傍にいてやることはできないけど。」
「でも、いつでも呼んで。必ず、応えてみせるから。」

優しい声で、あやすように、ひとつひとつゆっくり言葉が紡がれる。

「大切な妹だ、途中で放り出したりしねえ。」
「だいすきだよ、湊。」

そっと笠松と小堀が湊をはがして、森山へ引き渡す。
背中から痛いほどに抱きしめられ、首元へすり寄られる。

「ここで、終わりじゃないだろ。」

森山の声に、こくこくと頷く。
それを見た笠松と小堀は顔を見合わせて緩く笑った。

「これからも、よろしくな。」
「そうだよ。俺たち海常の生徒じゃなくなっただけだから。」
「俺たちを繋ぐのは、学校の名前なんかじゃねぇだろ。」
「はい…っ」
「まぁ、森山と付き合ってる間は間違いなく俺たちとも嫌でも会う機会はあるだろうしな。」
「森山と付き合ってる間はね。」
「やめろよその言い回し!」

いつもと変わらない3人に、湊も思わず微笑んだ。
それを見た笠松が、にんまり笑ってまた頭を撫でる。

「そうそう。湊はそうやって笑ってる方がいい。」
「かわいいなぁ。」
「ちょ、小堀やめろよ!」
「あははは」

この先輩たちが好きだ。
この人たちの下で、バスケが出来て、仲間と呼んでもらえて。
少し時間は短くなるけれど、それだけだ。

いつもと同じ賑やかな3人を見て、湊はまた笑顔を見せた。

mae ato
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