Planning! 2

「あれ、また拾われたの湊ちゃん。」
「はい、お邪魔します。」

家へあがってすぐに森山の兄に会い、また会釈する。
にこにこと笑顔を向けて歓迎してくれる彼に、森山は面白くなさそうだ。

「ご飯作るから、由孝と部屋にいて?」
「あ、手伝います。」
「いいのよ?お客様なんだから。」
「いえ、私由孝さんのお母様の料理好きなんです。是非見学も兼ねて。」

食い下がった湊に、森山の母は嬉しそうに笑ってそれじゃあ、と快諾した。
台所に並んで話をしながら料理をする2人を少し羨ましそうに眺める森山。
最初は何も言わず放っていたのだが、痺れを切らして途中で厄介払いを食らってしまった。

すごすごと自室へ戻り、ベッドへ横になる。
自分の家に彼女が来ているのに、何故自分は一人で部屋にいるのか。
答えの出ない自問自答を繰り返しながらただ時間が過ぎるのを待った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…湊ちゃん。」
「はい。」

呼ばれて顔を上げると、彼女が少し楽しそうに笑顔を浮かべていた。

「最近、何かいい事あった?」
「え、?」

急に投げかけられた問いに、思わず言葉を詰まらせる。

「当ててみましょうか。…そうねぇ、長年燻らせていた片思いが叶った、とか。」
「!」
「ふふ、相手は由孝、でよかったかしら?」

口ぶりからして森山が自分で言ったわけではないようだ。
多少の居心地の悪さを感じながら肯定の意味を込めて首を縦に振る。

「やっぱり、相手は湊ちゃんだったのね。」
「え?」
「ごめんなさいね、気が付いたのはどっちかっていうと由孝からなの。」

コンロの火を止めて、煮物の味見をする。
湊はただそれをじっと眺めていた。

「ちょっと前から急に今までずっと続いてた女の子談義がなくなって、あまり触ってるのを見なかった携帯をずっと気にしてるから。」
「はあ…」
「本当、我が子ながら分かりやすいわ。ごめんなさい、そこの小皿取ってくれる?」
「あ、はい。」

言われた通り皿を手渡し、話の続きを聞く。

「あの子からそういった話は聞いたことがないけど、きっと長い間貴女に片思いしていたんだと思うの。」
「…そうでしょうか。」
「私に似て少しそそっかしくて落ち着きの無いところもあるけれど、根はいい子なのよ。親である私が言うのも、おかしな話だけれど。」
「分かってます。由孝さんの良いところは、私も沢山見て来たので。」
「ふふ、ありがとう嬉しいわ。」

つぷり、と小芋に竹串を刺して具合を見ると、そのままそれを湊に差し出した。

「っ、」
「少しお行儀が悪いのは、見逃して?」

笑う彼女の手づから、遠慮がちにそれを頬張る。
もぐもぐと咀嚼して、じんわり沁みる味に実家の母親を思い出した。

「おいしいです。」
「よかった。」

作り終えていた他の料理を食卓へ運んで、用意をすべて終えてからエプロンを外す。

「残念な息子だけれど、よろしくね。」
「こちらこそ。」

あの人は親にまで残念と呼ばれるのか。
湊は小さく笑って森山を呼びに台所を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「君がうちの娘になる子か!」
「ちょ、親父やめてマジで!!」
「そうよ、お父さん。いくら楽しみにしてたからって飛躍しすぎよ、湊ちゃんが可哀想。」
「母さん、それはそれで俺傷つくんだけど…」

夕飯をごちそうになって、淹れてもらったお茶を啜って一服していると森山の父が帰宅した。
顔を見るや否や、冒頭の言葉が飛び出した。
目を見開いたまま何も言えない湊に代わって森山が慌ててフォローを入れる。
あまり母親には似ていないと思っていた湊だったが、この父親を見た後だと母親似だったのだと思いを改めた。

「お、お邪魔してます。宮地と言います。」
「聞いてるよ!湊ちゃん、だろう?」
「はい。」

どかりと面向かいの席へ座って、にこにこと湊を見遣る。

「とても気の付くいい子だと聞いている。母さんも大絶賛だったからね、間違いないんだろう。」
「とんでもないです。」

運ばれてきた料理に手を合わせてから箸をすすめていく彼。
どうしたものかと目線をさまよわせていると、少ししてからまた話を振られた。

「由孝から話を聞くのでね。君は非の打ち所がない子だと認識している。」
「それこそ、大きな誤解ですよ…」
「いやいや。だが、そんないい子が、何故由孝を選んだんだ?」
「そうそう、もっといい奴いっぱいいただろ?笠松くんとか小堀くんとか近場でもいるじゃん。」

森山の兄も面白そうに話に入ってくる。
付き合ってからやけにこの話をされるなぁ、と思いながらなんと答えるか思案していると
手を取られ、慌ててそれに倣って立ち上がった。

「もういいだろ、行こう湊。」
「あっ、まだ返事聞いてないだろ!」
「お父さん今帰ってきたばっかなんだぞ!!」
「知るか!!」
「ケーキ買ったから後で持っていくわね〜」

男性陣の激しい言い合いの中でもマイペースに響く母親の声に礼を言うとそのまま引きずられるように居間を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

バツが悪そうに腰を下ろした森山に、湊は笑顔を向けた。

「楽しいおうちですね。」
「ごめんな、その、先輩の家で家族に絡まれるとか…」
「いえ、私も楽しかったです。実家から離れて長いので久しぶりに家族を感じました。」
「そか…」
「それに、」

意味深に言葉を切った湊に首を傾げると、ふふ、と笑って続きを放った。

「彼氏の家族に気に入られて嬉しくないわけがありません。」

森山が避けた“彼氏”の単語をわざわざ出して悪戯に言うと、森山は目を見開いてからふらりと所在なさげに目線をさまよわせた。

「本当、ずるいわ。」
「すみません。」
「…や、悪くはないんだけど」

溜息をついてから、隣に座っていた湊の肩へ頭を預ける。

「彼氏として、彼女の方がかっこいいってどーなのっていう…」
「私は可愛い由孝さんも好きですよ?」
「…アリガト。」

ふふ、とまた笑うとぱっと森山が離れる。

「由孝さん?」
「忘れてた。」

自分の鞄を漁ると、小さな包みを差し出した。

「?」
「開けて。」

言われるがままに開封すると、出て来たのはシンプルなマリンブルーのピアス。
角度を変えると蛍光灯の光を反射して色を少しずつ変えるそれは、昼に立ち寄った雑貨屋で並んでいたものだった。

「綺麗…」
「黄色にしようかと思ったんだけど、宮地と被っちゃうしな。それに、」

ちり、と優しくハニーイエローのそれを触って微笑んだ。

「海常と言えば、青、だろ?」
「ええ。」
「湊も、海常の仲間だから。」

付き合って肩書きが“マネージャー”から“彼女”に変わっても、森山はマネージャーとしての湊も大切にしていた。
それを感じて、思わずぎゅっとピアスを握る。

「湊の事を一番好きなのは俺だけど、大切に思ってるのは俺たち皆一緒だから。」
「由孝さん…」
「俺が好きな色選んだら、きっと黄瀬や早川たちが煩いだろうしな。」

言い訳するように添えた言葉に、湊は至極嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。」
「あ、でも1つ約束してほしい。」
「何です?」
「ピアスの穴開けるのは、高校卒業してからにしてほしい。」
「え?」

確かに湊がずっとつけているのはイヤリングなため、ピアスホールはない。
だが、今貰ったそれをつけるには、ホールを開けなければならない。
湊の気持ち的には今すぐにでもつけたいくらいだったので、森山の言葉には首を傾げるばかりだった。

「どうしてですか?」
「今それを理由に穴あけたのがバレたら、俺はお前の兄ちゃんに殺される。」

まだ森山と付き合っていることすら知らない兄。
大切な妹に彼氏ができ、さらにそいつが理由で傷がついたとなれば奴は黙っていないだろう。

「だから、高校出たらそれつけてほしいんだ。」
「高校出たら、いいんですか?」
「一区切り、ってやつ。」

それまでは、これ継続な。
そういって、手をイヤリングから離した。

「わかりました、大切にしまっておきます。」
「ホールは、俺に開けさせてな。」
「失敗しないでくださいね。」
「予習しとく。」

楽しそうにくすくす笑う湊に、森山も自然と笑顔が漏れた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「デートはどうだった?」
「おはようより先にそれかよ。」

次の日、いつもと同じように休日練習に出た森山に、小堀が笑顔で尋ねる。

「どうせまたヘタレっぷり全開で湊にエスコートしてもらったんだろ?」
「何でんな知った風に言うんだよ、ちゃんと俺だってエスコートできたっつの!」
「ほんとかよ。」
「信じらんねぇ。」
「湊!!本当だよな、な!?」
「ふふ、そうですね。」
「ほらあ!」
「分かってんのかお前、笑われてんぞ。」

今日もにぎやかな3年生たちに小さく笑みを浮かべると、隣にいた中村が湊を見下ろしてぽつりと言った。

「…何かいい事でもあったのか?」
「ん?」
「嬉しそうな顔してるから。」

目ざとい中村に、また少し笑って目線を3年トリオへ戻す。

「わかる?」
「分かるよ。…何があったんだ?」

不思議そうに聞かれ、湊は人差し指を唇へあてて微笑んだ。

「ひみつ。」

湊のご機嫌の理由がわかるまで、あと1年半。

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Thank you for Ms,Elena!

mae ato
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