「―――と、言うわけだ。」
「何でそんな拗れてるんスか…」
「俺が聞きたい。」

笠松を挟んで3人はいつもより2周りほど小さく円を作っていた。
森山は一度頭を冷やせと体育館から追い出した。

「てか、湊さんの好きな人って森山センパイだったんスね…意外っていうか、なんていうか。」
「意外ってのもあるけど、一番は」
「「見る目がない」」
「それッス。」

本人が居ないことをいいことに、言いたい放題の3人。

「バスケ部の仲間としては、信用してるし、信頼もしてる。」
「頼りになることも知ってるし、面倒見がいい事も知ってる。」
「「でも、あれが彼氏となると話は別だ。」」
「ご尤もっス。」

しこたま森山のこういう所がだめだ、残念だと言ってから話を本題へ戻す。

「…でも、このままだと拗れたまま卒業、なんてことも」
「有り得るな。」
「くっつくにしてもフラれるにしても、進まないことには最悪の状態で現状維持だ。」
「俺たちも迷惑を被ることになる。」
「黄瀬から見て、どうするのがベストだと思う?」
「え?」
「百戦錬磨のお前の戦術見せてみろ。」
「先輩たち俺を何だと思ってんスか…」

溜息をつきながらも、目線が斜め上を泳ぐ。

「そうっスねー…このままだと森山センパイから告白へ向かうのは無理かもしれないっスね。」
「やっぱそうか。」
「もともとアレで湊さんには完全にヘタレてるし…湊さんが望んでる言葉があの人から出るとは現段階では思えないッス。」
「なんだろう、黄瀬がマトモに見える。」
「俺も思った。」
「そろそろ怒りますよ。」

大切な先輩2人の話だ。
黄瀬だって持てる力は出し切って出来うる限りハッピーエンドへ近づけたい。

「…これなら、もういっそ湊さんけしかける方が早いかもしれませんね。」
「なんか案でもあるのか。」
「そうっスね……あ」

きょろりと泳がせていた目が捉えたのは、体育館の出入り口に貼ってある1枚のポスター。
前へ立つ黄瀬に続いて笠松と小堀も寄って行く。

「なんだ?」
「海常祭のポスターじゃねぇか。」

海常で毎年行われる文化祭だ。
海常は少し特殊で、夏に文化祭を行う。
恐らくは、名前にある“海”のイメージを崩さないためだろう。

「そういえば、今年の生徒会の出し物何になったんだろうな?」
「生徒会?」
「毎年生徒会が仕切る出し物があるんだ。昨年はカラオケ大会だったな。」
「そうそう。笠松のギターすっごい人気だったよな。」
「俺歌ってないんだけどな…」
「えーっと今年はー…」

ポスターの右端に書かれた概要の所を読んで、黄瀬は目を輝かせた。

「これだ!!!」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

放課後の練習前に、レギュラーメンバーと湊は部室へ集められていた。

「どうしたんだよ、急に?」
「何かあったんですか?」

不思議そうにする森山と2年トリオに、黄瀬は嬉々として言い放った。

「来月に迫った海常祭についてッス!」
「海常祭?」
「ああ、もうそんな時期か。」
「今年の生徒会の出し物、何か知ってるか?」

小堀が言った途端、湊が顔をしかめた。

「その小堀さんの顔、嫌な予感しかしないです。」
「はは、流石湊の勘は当たるな。」
「肯定しちゃうんですね…」

げんなりした様子で黄瀬へと視線をうつし、続きを促す。

「今年は、部対抗になってるのは、知ってますよね?」
「ああ。」
「優勝したとこ(ろ)には、(臨)時の部費が入(る)って噂が飛び交って(る)ぞ。」
「その通りッス、早川センパイ!」

やけにハイテンションな黄瀬に、湊の嫌な予感はどんどんひどくなっていく。

「で?今年の出し物は何なんだ?」
「これッス!!」

バン、と盛大な音をたてて机へたたきつけられた1枚の紙。
何かのエントリーシートのようだ。

「…?」
「はい、中村センパイ読んで!」
「…『ベストカップルを探せ、海常舞踏会』…」
「ありがとうございます!」

何故か得意げな黄瀬に代わって、笠松が内容を説明し始める。

「部から2名、代表者を選出して競う内容のようだ。舞踏会の名の通り、選ばれた2名は西洋の衣装を着て、海常祭を回る。どうやら交換留学で来てるイギリスの奴らに向けて企画されたものらしい。」
「勿論、相手はそれぞれ同じ部から出てる奴。ルールは大きく3つ。」

小堀が指さす先へ視線を落とすと、諸注意の欄に3つほど注意事項が書いてある。

「…1、男女のペアで出場すること」
「2、海常祭はそれぞれ姫と王子を演じきる事…」
「3、男女の衣装は、入れ替わ(る)ものとす(る)!」

元気に言い放った早川が読んだ3の項に、湊が首を傾げる。

「どういうことです?」
「つまり、ドレスを着るのは男子、王子の衣装を着るのは女子ということだ。」
「は?!」
「部と名の付くところはすべて強制参加が決定している。うちも勿論対象だ。」
「男女のペア、ということは男バスからは必然的に湊が出ることになる。」
「そう、ですね…」
「問題は相手だ。」

いつもならそこで喜んで手を上げる森山だが、今朝の事がひっかかっているのか溜息交じりに話を下りた。

「なら、男は黄瀬で決まりだろ。身長でいくなら笠松でもいいけど。」
「シバかれてぇのか。」
「黄瀬は今回裏方に回ってもらう事になってるから、出られないよ。」

小堀の言葉に、森山の目が2年生を見遣る。

「なら、小堀か…中村か早川か。」
「俺はクラスの方で店番頼まれてるからその日1日開けるのは無理だ。」
「俺と早川も、クラスが劇にあたってるんで無理です。」

消去法。
完全に自分の首を絞めた結果になった森山は、ぐっと眉を寄せた。

「俺はやだぞ。」
「我儘言うな。それに、俺も小堀も最初からお前を出すつもりで話をしてるんだ。」
「は…?」

まさかの爆弾発言に、森山は言葉を失った。

「今回の臨時収入、もし入ったら冬の合宿と言う名の旅行に行くことになってる。」
「は!?」
「珍しく監督も乗り気だったから、間違いない。まぁ、多分いけるのはレギュラーだけになるだろうけど冬の合宿は毎回そうだからな。」

楽しそうに笑う小堀を一瞥して、笠松が続けた。

「つまり、だ。今回俺たちは何としてでも優勝を狙いに行かなければならない。」
「……」
「確かに、消去法でいけば俺か森山だ。だが、俺が女装してグランプリが取れると思うか?」
「…思えない。」
「幸いな事に湊も背丈はある。西洋衣装なら、ヒールのブーツでも不自然じゃないだろう。」
「森山と湊の身長差は8センチ。さっき生徒会室へ行って衣装見て来たけど、ヒールは軽く15センチはあった。」
「身長差がひっくり返る事自体が、他の部ではほぼありえないと言ってもいい。」
「それだけで大分有利なんだよ。」

捲し立ててくる2人に、森山は完全に押されている。
困ったようにちらりと湊を見ると、小さく溜息をつかれた。

「お任せします。私が出なくちゃいけないのは、もう決定事項なので。」
「湊…」
「じゃあ、うちからは湊と森山で異論はないな。」

あれよあれよという間にエントリーシートには2人の名前が綴られ、部長の笠松のサインと共に生徒会室へ提出された。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

帰り道。
海常祭の話が頭から離れない森山は完全にペースがつかめないまま、その日の練習を終えていた。
いつもは先導して歩く側の森山だが、今日は湊と共に最後尾をとぼとぼとついていく。

「そんなに凹まなくても。」
「お前は男装の方だからいいよな…」

森山の溜息はどんどん深くなっていく。
一体何が悲しくて思いを寄せる相手の前で女装姿を晒さねばならないのか。
ネタとして楽しむならいざ知らず、なり切れとまで言われてしまえばふざける事もできない。
笠松にシバき倒されるくらいなら、じっと何もしゃべらずに座っていたほうがまだマシだ。

「いいんじゃないですか?別に女装以外は自由行動なんだし。」
「お前な…」
「涼太くんに思い切り原型が分からなくなるように作りこんでもらえばいいじゃないですか。」
「…確かにあいつならできそうだ。」

海常祭を湊と2人で回るのは、確かに森山の夢でもあった。
だが、叶う形が望んでいたものと大きく離れている。

「(最後だからと割り切るべきか、最後なのにと嘆くべきか…)」

今日一番の深い溜息をついて、2人は静かに5人の後を追った。

mae ato
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