ビー、と試合終了のブザーが鳴る。
練習試合とは言え、手は抜かないのが海常バスケ部のモットー。
40点以上差を開いた状態で、最後に森山の手を離れたボールがトドメとばかりに
ゴールをくぐる。

「お疲れ様です。」
「おお。」
「湊もな!」
「私はただ休憩の準備とかしてただけだよ。」

タオルを受け取りながら笑顔を浮かべる早川には、まだまだ余裕がにじんでいる。

「ブザービートなんて狡いッス!!」
「なんでだよ!ただの3Pだろ!それが俺たちSGの仕事なの!」

未だにコートの中で言い合いをするのは、黄瀬と森山。
ずるいずるいと繰り返す黄瀬に、森山が大人げなく言い返している。
くすくすと笑いながらその光景を見ていると、笠松からの檄が飛んだ。

「湊?」
「ああ、ごめんなさい。」

頭上から呼ばれ、ドリンクのボトルを渡した。
それを受け取りながら小堀が同じように未だ賑やかな二人を見る。

「本当あいつらは懲りないな…」
「そろそろ笠松さんの蹴りが炸裂する頃ですね。」

湊の言葉とほぼ同時に黄瀬の「痛いッス!」という声が響く。
早々に片付けを始めていると、今日はベンチだった中村が一番重いバッグを肩にかける。

「あ、いいよ中村くん。私持つから、」
「俺今日試合出てないし、これくらいするって。」
「でも私マネージャーだし、それじゃ私のいる意味が、」

言っている間に他の荷物を小堀が持ち上げる。
あわあわと止めていると相手校に挨拶を済ませた笠松が帰ってきた。

「おい、帰るぞ。」
「か、笠松さ、わ!」

ぶん、と両手に引っ掴んでいた黄瀬と森山を投げつける。
思わず庇うように両手で抱き留めた。
二人がぎりぎり踏ん張ったのもあって転げることはなかったが。

「荷物持ちてえなら一番のお荷物があるだろが。お前の管轄だろ責任もって持って帰れ。」
「センパイ酷いッス!」
「俺は湊が連れて帰ってくれるならお荷物でもいい。」
「あ!ちょっと何肩組んでんスか!」
「はいはい、帰りましょうねー。」

森山の腕からそっと抜け出して二人の背中を押して体育館を出る。
最後に笠松と並んでぺこりと一礼を残して相手校を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「今日のベストスコアラーは俺ッスよね?!」
「俺だよな湊!!」
「早川くん今日もナイスリバンだったよ。」
「あ(り)がとな!」
「「くっそ!!毎回持っていかれる!!」」

最近になって森山黄瀬ペアのあしらい方が分かってきた湊は容赦ない。
しょんぼりと肩を落とした高身長2人の腕をするりと取ってやると、
打って変わって目を輝かせて甘えるようにすり寄ってくるのだから本当にチョロイ。
と、後ろから笠松は思っていた。

「たく…」
「まあまあ。」
「お前も何とか言えよ。」
「俺はいいと思うよ。たまには俺も湊の隣行きたいけど。」
「本当、お前らは湊がすきだな…」
「笠松さんも他人の事言えないと思いますけどね。」

中村が眼鏡のブリッジをあげながら言う。
自覚があるのか、笠松もそれ以上何かいう事はなかった。

「笠松ー!湊ん家寄ってくだろー!?」
「プリンあるって言ってるッス!!」
「反省会も湊の家でや(り)ましょう!」

少し離れたところから大袈裟に手を振って自分たちを呼ぶ3人。
湊は振り返ってただ柔らかい笑顔を向けている。
小堀と中村が両隣から窺うように目線をむけると、溜息をついてから歩幅を広めた。

「晩飯は肉じゃがな!」
「えっ狡い!俺オニオングラタンスープ!」
「俺うどん!きつねな!」
「俺は天丼がいいなぁ。」
「カニク(リ)ームコ(ロ)ッケ!」
「はいはい。今日はブザービーターの森山さんとハイスコアラーだった笠松さんのリクエストで。残りは今度。」
「よっしゃー!!」
「「え―――!」」

今度、がこんなにも簡単に口から出る関係。
少し前の一件があってから、7人の絆は更に深まった。
リクエストが外れたにも関わらず、小堀は至極幸せそうに笑った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

夕飯も済んで、下3人はすでにお眠のようだ。
うとうとと船を漕いでは目をこすって起きる努力をする早川と、
すでに抗う気もないとばかりにソファを背もたれにして意識を手放そうとする黄瀬。
中村はまだ前記2人よりはマシのようだが、眠そうにぐっと眉間に皺をよせている。

机を挟んで向かい側で、笠松が頬杖をついて仕方なさそうに今日何度目かの溜息。
湊はそっと立ち上がって彼ら専用となっている掛布団をそれぞれへかけてやる。
黄瀬はもぞもぞとそれをかぶって寝ころび、本格的に寝る体勢に入った。
それを見届けてから早川の手をそっと取って止める。

「あまり擦ると目に傷がついちゃうよ。」
「う゛〜〜〜…」
「いいよ、明日また別で伝えるから。」
「ん゛〜〜…」

俯く早川の頭に自分の額を当てて、恒例となった一言。

「おやすみなさい。良い夜を。」

かろうじてギリギリ開いていた目が閉じて、ずり落ちる様に彼女の膝へ頭を乗せて寝息を立て始めた。
この言葉を聞くと、魔法にかかったように下3人は眠りに落ちる。

「湊は、母親みたいだな。」

小堀の言葉に一瞬目を瞬かせたものの、小さく笑って膝の上の頭を撫でた。

「可愛いでしょう?」
「はは、そうだな。」

小堀が隣りから同じように黄瀬の頭を優しく撫でる。
ふへ、と表情を緩めた黄瀬を見て森山が微妙な顔をした。

「俺、今なんでこいつがモテるのかわかっちゃった気がした…」
「よかったじゃねーか、勉強になったろ。」
「黄瀬で学びたくなかったわ。」

手に持っていたシャーペンをころりと机にころがして自分も床に寝そべる。

「森山さん、そこで寝たら風邪ひきます。」
「んー」
「ああ、もう。」

そっと早川の頭をどけて湊が立ち上がる。
いつものように布団の用意をして中村と早川を揺すり起こして移動させた。
黄瀬は、小堀が移動させた。
流石の一言に尽きる。

「森山、小堀。」
「ん?」
「先寝てろ。後は俺たちでする。」
「え、いいよ。最後まで一緒にやるって。」
「いいから。」

手であしらわれ、小堀が森山の肩を叩く。

「お言葉に甘えよう。」
「小堀、」
「(森山、今日いつもより運動量多かったろ。笠松なりの気遣いだって。)」
「…じゃあ、お先。」
「ああ。」

森山だけに先に寝ろと言っても聞かないことがわかっているので小堀をつけた笠松の気持ちを汲み取った2人は、彼の言葉に甘えた。
自分で掛け布団を持ってきて、各々後輩たちに布団をかけなおしてから眠りにつく。

「笠松さんは大丈夫ですか?」
「あ?」
「反省なら、明日でもいいんですよ?私なりにまとめておきますし。」
「ここで俺まで寝落ちたらお前がまた一人やることになるだろうが。」

かちゃりと眼鏡を外して目頭をつまむ彼に、湊は仕方なさそうに溜息をついてから
キッチンへ立った。
数分して戻ってきた彼女の手には、カップが2つ。
あの時割ってしまったので、今カップは彼女の兄が来たときに使う2つしかない。

「どうぞ。」
「ん、」
「気の問題かもしれませんけど。」

温かくほのかに甘いコーヒーは、少し冷めてしまった体に染み渡る。

「俺、やっぱりお前が淹れるコーヒーが一番好きだわ。」
「もったいないお言葉。」

小さく笑ってから、カップを愛用している青いボーダーラインのペンに持ち変える。
ここからは、主将とマネージャーの2人だけの時間。

「前半終盤、相手の5番が攻めて来た場面ですけど…」

試合中の走り書きを開きながら別の紙に清書をしていく。
綺麗にそろった几帳面な字を見て小さくにやける口元を、笠松はそっと手で隠した。
いつも他のメンバーの面倒を見ることが多い関係上、彼女とサシで話をすることは少ない。

『笠松さんも他人の事言えないと思いますけどね。』

中村の言葉が、頭をよぎる。
ちらりと目を上げて、自然と少し伏し目がちになっている彼女を盗み見る。

彼女に支えられて、自分たちは部活をしている。
彼女がいるから、自分たちはのびのびとバスケに打ち込める。

湊には、返しても返しきれないほどの恩がある。
それは、6人全員の思いだ。

が、彼女も同じように思っているのだろう。
自分たちが湊のためにしてやれている事なんて、しれているのに。

「(ああ、そうだよ。俺だってこいつが大切だ。悪いかよ。)」

誰にするでもない言い訳を心の中で呟く。

「笠松さん?」
「ん、あぁ、すまん。」
「いえ、やっぱりもう寝ます?」
「いや、大丈夫だ。悪い、9番のアシストの所からもっかい頼む。」

まだもう少しだけ、彼女を独り占めしていたい。
残り少ない時間、彼はシャーペンを片手に優しい彼女の声に耳を傾けた。

mae ato
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