翌日。
いつものように朝練にやってきたメンバーは、明らかな違和感を感じていた。
違和感の理由はいくつかあるが、一番大きいのは3年生組の足元で小さくなっている番犬2匹の存在だろう。

「…おい、いつも止めてる立場の俺が言うのもなんだが、何でお前らここに居るんだ。」
「湊ならあそこだぞ、ほら。」

小堀が体育館の端にいる湊を指さして言うが、2人は動かない。
むしろどんどん小さくなっていく。
どこか影を背負っているようにも見える。

「…?」
「どうしたんだよ。」
「俺たちが聞きたいッス…」
「お(れ)、2年一緒に居(る)けど、あんなにあか(ら)さまに避け(られ)たの初めてだ…」
「は?」
「避けられた?」

笠松が怪訝そうな顔をする。
どうやら、いつものように寄っていた2人は湊に盛大に拒否を食らったらしい。
今にも死にそうな黄瀬と早川に、笠松は溜息交じりに言った。

「森山、お前行って来い。」
「は?」
「何があったか聞いてこい。こういうのはお前が一番適任だろ。」
「や、ここは小堀の仕事だろ…」
「小堀は最終手段に残しておきたい。」
「なんでだろう、やけに納得した自分がいた。」

仕方なく歩き出して湊へ近づく。
丁度3Pライン分ほど近づいた時、湊がぱっと森山の方を向いた。

「森山さん?」
「なぁ、湊。ちょっと聞きたいことが、」
「ちょっと待ってください。」
「え?」

ぱたぱたと少し離れた湊は、ぎゅっと体の前でバインダを抱いた。
いつぞやに小堀からもらったジャージもしっかり着込んで。

「足元の青いライン超えないでください。」
「え…」
「お話、そこからなら聞きます。何ですか?」

少し声を張るようにして言う湊。
森山はおろおろしながら言った。

「え、え、湊?」
「はい。」
「なんで、そんなこ」
「ライン!!超えないでください!!!」

あからさまな拒絶に、森山はその場に崩れ落ちた。
湊が駆け寄ろうとしたが、躊躇して、ぱたぱたとまた少し距離を取った。
森山のライフはもう0だった。

「湊…」
「あ、う…」

彼女の様子から見ると、別に森山の事を嫌いになったわけではないようだ。
それだけが、彼には救いだった。

「どうしたんだ、一体」
「かっ、笠松さんはもっとダメです!!」

ぐさり。
小堀には笠松の胸を通過する何かが見えた。
が、そこはさすがと言うべきか。
彼は踏ん張り膝をつくことはなかったが、ダメージは思いのほか甚大なようだ。
小堀は一体何がそうさせているのかを、客観的に分析しはじめる。

湊がゆっくりと何歩かまた後ずさるが、そこで小堀がピンときた。

「湊、俺たち寄らないから、そこにしゃがんで。」
「…」
「小堀…?」

もはや涙目な森山が小堀を見上げる。
湊はそっと言われるがままにその場に腰を下ろした。
足をぎゅっと抱き込んで、壁に背中をつけたまま、小堀を見ている。

「俺は、寄っても平気?」
「…」

少し考えてから、ゆっくりと頷く。
他のメンバーに更なる追加ダメージ。
小堀が苦笑いで歩み寄る。
湊の前へとしゃがみ込むと、いつもと同じように頭を撫でた。

「どのくらい変わった?」
「!」

湊が目を見開く。

「わかるって。湊が意味もなく俺たちを遠ざけるわけない。部活へ出て話もしてるってことは、俺たちが根本的に嫌になったわけじゃない。」
「…はい。」
「昨日の練習、さらに言うなら誠凛の3人が帰るまではふつうだった。」
「…」
「その後からだよな。帰りも俺たちと一緒じゃなかったし。」
「小堀さん…」
「湊ずっと気にしてたもんな。でも、湊は湊だろ?俺たち気にしないぞ。」
「こ、小堀さぁん…!」

湊ががばりと小堀に抱き着く。
いつもはどちらかと言えば甘えられる方である彼女には、至極めずらしい光景であった。

「小堀狡い!!!」
「「小堀さん狡い!!!」」
「シンクロすんな!つか、何だったんだよ!?」

笠松が突っ込みと共に怒鳴るように尋ねると、小堀がさらりと答えた。

「身長だよ。」
「「「「…は?」」」」
「あはは、中村は知ってたんだな。」
「まァ…毎日隣立ってれば気付きます。」

他のメンバーは全く気が付かなかったから今こうなっているわけなのだが。
今はそんなことは後回しだ。
黄瀬が慌てて言う。

「ど、どういう事ッスか!?」
「身長?!」
「湊、また身長伸びたんだろ?」
「…はい。」

ぎゅう、と小堀の胸に顔を埋めてぼそりと返事をする。

「え?!それだけ?!」
「そっ、それだけって!!私には死活問題なの!!」
「え、湊今何センチあんの。」

森山が尋ねると、至極言いにくそうにもそりとこぼした。

「…173です。」

ビシリ。
笠松が固まる音がする。

「うわあああああんだから言いたくなかったのにいいいい!!!」
「か、笠松!!帰って来い!!」
「5センチしか違わない、だと…」
「笠松センパイしっかり!!」
「な(る)ほど、だか(ら)一番高い小(堀)さんな(ら)って言ったのか。」
「早川ここで冷静さいらないから!!」

カオスと化したバスケ部。
中村だけが溜息まじりに練習へ戻って行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

数分後。
(一応)冷静さを取り戻したメンバーは、並んだ湊をそれぞれ凝視していた。

「…」
「…確かに、いつもより大きい、かも?」
「毎日並んでると、むしろ気付かねぇよ…」
「うう…」

視線から逃げるようにまた小さくなった湊。
と、早川がいつもと同じように後ろからぎゅっと抱き着いた。

「は、やかわくん?」
「お(れ)は、このく(ら)いの高さ丁度いいけどな。」

にぱ、といつもの笑顔を浮かべながら自分の頬あたりにくる湊の頭へすり寄る。
黄瀬も同じように笑って言った。

「男女間の身長差って、15センチがベストらしいッスよ!俺と湊さんで丁度そのくらいッス!」
「「死ね黄瀬!!!」」
「いでぇ!!!」

森山と笠松からそれぞれ色んな意味の籠った1発を食らう。
中村も溜息まじりにそれを見つめていた。

「湊が何センチあろうと、俺たちは変わんないよ。」
「中(村)の言うとおりだ!伸びたって言っても、まだお(れ)たちの中じゃ一番ちびだぞ!」

ぐしゃぐしゃと頭をかきまぜられて、湊は目を閉じて気恥ずかしそうに顔をジャージへ埋めた。

「…ありがとう。」
「お(れ)は、湊の根本がすきだか(ら)な!」
「俺も。湊がすきだよ。」
「うん、私も早川くんと中村くんすきだよ。」

完全に2年コンビにすべて持っていかれた他メンバーは、
少し悔しそうに、また彼女の周りへあつまっていくのだ。

今日も、海常バスケ部は平和です。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あ、土曜から月曜まで誠凛と合宿です。」
「「「「「「は?!」」」」」

mae ato
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