書き上げた手紙渡せず隠す
「マジで、そういうの、困るんだけど。」
「そういわないで…!」
月曜日。
学校にいくとあの子の手から渡されたのは、
先輩からの手紙だった。
メールがだめなら手紙ってか。
ほんと、ありえない。
「いらない。」
「そういわないでってば!読むだけでも!ね?!」
「どうせまた森山先輩の代筆でしょーが。それに、読んだってどうせ「ごめん」とか意味もない謝罪が並んでるんでしょーが。」
「封だけでも開けてあげてよ…!」
「なにそんな必死になってんの。」
溜息まじりに手紙を、つかんだ彼女の手ごと押し返す。
「今回は!今回は絶対小堀先輩が自分で書いたやつだから!」
「分かんないじゃん。」
「わかるよ!あの後私たちの前で書いてたもん!」
「笠松先輩も1年の彼らもイタンデスネーはいはい。助け合いって素晴らしいっすわ。」
「湊〜〜〜…」
本当に困った顔で私を見てる。
別に彼女に不満も何もないけど、先輩からの手紙はいらない。
「私がいたんだから、新しいアドレス聞いてメールすることもできたんだよ!?」
「できなかったんですね。根性なし乙。」
「じ、直筆だったら代筆なんてできないじゃん!」
「私先輩の字知らないし。」
ああいえばこういう私に、彼女もたじたじ。
いつもは笑って誤魔化してるだけで、今までも口喧嘩は負けたことがない。
「あーもう!」
彼女はあろうことか机に置いていた私のスマホを引っ掴んで走り出した。
「はあ?!」
「手紙と一緒になら返してあげる!」
「ちょ、ふざけんなバカ!」
廊下を二人で全力疾走し始める。
相手はマネージャーといえど運動部。
時間がかかればかかるほど勝てなくなる。
「くっそ…!」
私は途中で路線変更。
1階の渡り廊下に出る。
この先は一本道。
行く先はわかってる。
廊下の窓をあけて外へ飛び出した。
「待てこらあああ!!!」
「受け取ってくれるなら待つってばああああ!!!」
☆★☆★☆★☆★☆★
「あ」
「ん?」
移動で来ていた特別棟の窓から下を見ると、いつも世話をやいてくれる彼女が走ってる。
「何やってんだあいつ…?」
「さあ…、!」
渡り廊下を走る彼女を追うように、反対側の校舎の窓から別の影が出てくる。
「あの子じゃん。何してんだろ。」
いつも浮かべる笑顔じゃなくて。
俺にいつも向けてくる、イライラしてます、って顔をしてる。
何をそんなに怒らせたんだ、と、マネージャーの方へ目を移すと
彼女の手には携帯と、青い封筒。
あれは、おそらく俺が渡すように頼んだ手紙だろう。
拒否られたな、あれは。
携帯は、おそらくは人質。
本格的に嫌われたな、これは。
思った瞬間、ぎゅう、と心臓が痛くなった。
わかってたことだったのに。
最初から嫌いだって、言ってたじゃないか。
自分に言い聞かすように心の中で繰り返す。
「行こう、森山、笠松。次に遅れる。」
「え、あぁ。」
「そうだな。」
窓から離れて、歩き出した。
俺が一番先頭を歩くのは、珍しいことだった。
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「つ、捕まえたぞ…」
「しょ、ショートカットは、ずる、い」
「うるせー!携帯返せ!」
「てーがーみーもーいーっしょー!!!」
「だああああわかったから!!」
彼女の頑張りに仕方なくすこしくちゃくちゃになった封筒を受け取る。
…なにやり切った顔してんだシバくぞこの野郎。
読んだところで、何も変わんないから。
教室に戻った私は、そう思いながら手紙を開いていた。
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常盤さん
この間は、本当にごめん。
信じてもらえないだろうけど、俺からのメールで森山が代筆したのは
一部なんだ。
どうしても俺じゃ話のネタが見つからないときに、
森山にアイデアをもらってた。
少しだけでも長くメールしてたくって、悪あがきをした。
本当に、悪かったと思ってる。
あまり、自分からずっと話をするのは慣れてなくて
いつもは笠松や森山がじゃれ合ってるのを見てるだけだったりするから。
きっと、この手紙も返事は期待できないんだろうと思う。
長々と付き合えとは言わない。
今日の昼休みの間だけ、俺と話をする時間をくれないか。
中庭の、あの時と同じベンチで待ってる。
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ふざけてる。
今更話をしたところで何が変わるってんだ。
私は、先輩がきらい。
それはもう変わらないじゃん。
行ったところで、他にいうことなんてない。
けど。
これ以上このまま付きまとわれるのも困る。
若干意地になってるところもあるようだから、
この手紙だってこの子と私が友達である以上続くだろう。
毎回追いかけっこはごめんだ。
授業が終わったと同時に、私は目の前にすわる彼女に声をかけた。
「小堀先輩の、アドレス、教えてほしいんだけど。」
決戦は、2時間後。
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