タイミングそれは最悪で

朝。
昨日のテンションを持続したまま携帯を変えにいった。
初めて使うスマホ。
なんとなくわくわくする。

「電話番号はこのまま継続でよろしいですか?」
「あ、はい。」
「アドレスの移行や変更のメール送信はいかがいたしましょうか?」

今はそんなこともやってくれるのか。
じゃあ、と新しく作るアドレスをメモ用紙に書いて、お姉さんに
アドレスの変更とその旨をメールしてもらう。

「あ、!」
「?」

私が思い出してあげた声にお姉さんが笑顔を向けてくれる。

「アドレスの…」
「はい。」
「≪小堀≫って人には、送らなくていいです。」
「その方だけ外せばよろしいですか?」
「はい。」

私の返事にこくりと小さく頷いてまた手を動かし始める。

これでいいんだ。
無理に相手なんかしてもらいたくない。

全部してもらったスマホを持って家への道を歩き出す。
と、向こうからよく見知った姿。

「あ」
「あ!偶然!どっか行ってたの?」

マネージャーの彼女だ。

「うん、携帯変えに。メール行ってるでしょ?」

私の言葉に、ポケットから私と同じ型のスマホを出していじっている。

「あ、本当だー。ね、今から暇?」
「え?うん」
「なら、これから携帯の設定しにマジバでも行こうよ。手伝ったげるから!」
「本当!?ありがとう、助かるわー」

友人の言葉に甘えることにして、大通りのマジバへ入る。
いつもと同じセットを頼んで、窓際のボックス席へ入る。
とりあえず立ち上げて、いろいろ使い方を教わる。
やいやいやっている間に、彼女のお勧めだというゲームのアプリまで入れられたりして。
とても楽しい時間を過ごしていた。

「そういえばさぁ、」
「んー?」
「小堀先輩となんかあったのー?」

手から、食べていた三角のパイが滑り落ちた。

「え、何で。」
「や、昨日の午後練から何か変なんだよねー。」

ジュースを啜りながらいう。

「先輩Cなんだけど、あー、簡単に言えばCってのはゴール下の守りをする人なんだけどね。」
「はぁ…」
「先輩、部員の中で一番背高いし、簡単には抜いてゴール決めるなんて無理なわけ。」

頼んでもないのに説明を続ける。

「なのに、昨日の失点率はえらいことになってたし、いつもは女の子女の子って煩い森山先輩までやけに静かだったんだよねぇ。」

話題に上がった名前2つに少しだけイラッとしながら、トレーに落としたパイをまた貪る。

「笠松先輩に聞いても分かんないって言ってたし、あの人に分からないなら他の部員に分かる訳ないし。」
「で、何で急に私?先輩の不調と私がつながる理由がないと思うけど?」
「私もそう思ってたんだけどさー。」

ちらり。
彼女が目を私の真新しい携帯へ移す。

「やたらと帰りに携帯気にしたりとか、もう誰もいるわけない私たちの教室の窓見上げてたりしてさ。」
「?」
「いつも、あんたが顔だしてるとこ。」

もう完全にこいつの中では私が犯人になっているらしい。
溜息をつく。

「別に?なんかあったわけじゃないよ。」
「本当?」
「んー」

まぁ、話しても問題ないか、と、できるだけ第三者目線で何があったかを伝える。

「ずっと先輩からメールきてたじゃん?」
「うん。」
「あれ、森山先輩が代筆してたんだって。」

私の言葉が予想外だったのか、たっぷり間をあけてから、は?、とだけ返ってきた。

「どういうつもりか知らないけど、無理やり繋げてたメールの正体を、たまたま知ってしまった。それだけ。」

くしゃり
パイが入っていた袋を小さく丸める。

「まじかよ…」

あの人はまったく…なんて声が聞こえるけど、私は別段もう何とも思ってない。
イライラしてたのも、この子に言ったらなくなった。
やっぱ、自分の中でくすぶらせてるとダメだな。

「あー、まあ、ほら、それが理由とは思えないし、なんかあったんじゃない?」
「いや、それが原因でしょ。」
「いや、何で。ただ単に何の関係性もなかった後輩とのメールが切れただけでしょ。」

今度はポテトをかじる。

「ちょ、マジで言ってんの。」
「あ?何が。」

首をかしげると、ぶつける質問を変えて来た。

「先輩の事、なんとも思わないの。」
「なんか思うエピソードがない。」
「好き、とか。」
「好きになるエピソードはもっとない。」

ばっさりと切ってやると、がっくりとうなだれられた。
何なんだこいつ…

周りを見ると、夕方の部活帰り組で席が埋まってきていた。

「あれ、そういえばあんた今日部活は?」
「今日はオフ。皆ストバスとかでどうせ練習してるだろうけ、ど、あ。」
「?」

頬杖を崩して言葉を切った彼女に、私もその目線を追う。
コンマ一秒で、やめとけばよかったと後悔した。

「先輩たちだ。」

目線の先には、なぜかよく会うようになってしまった先輩たち。
今日は1年生の二人も一緒のようだ。
むこうの一番小さい先輩が彼女に気付いて、ひらりと手をあげると、それに他のメンバーもこっちを向く。

先輩が、またあの時と同じ顔してる。
なんだよ、そんな顔するならこっち見んな。

「休みの日まで会うなんてな。」
「笠松先輩お疲れ様です。ストバス帰りですか?」
「あぁ。」

カサマツ先輩が話しかけて来た。
周りを見回すと、他に空いてる席は1人用のカウンターとかだけだった。
私はまだ会話を続ける彼女とカサマツ先輩に、散らかしていた荷物を片付ける。

「あ、君…」
「よければ、ここどうぞ。」
「湊?」

森山先輩がおずおず声をかけて来たので、それをばっさりと途切れさせて
席を立った。

「ありがとね、助かったわ。」
「あ、ううん…」
「失礼します。また月曜ね。」

先輩たちに向けておざなりな挨拶と、彼女への礼を述べて店を出た。

鞄からイヤフォンを探していると、ばたばたと足音が追いかけてきた。
なんとなく予想がついて、また溜息。

「常盤さん!」

ぐい、と肩を掴まれて仕方なく顔だけ振り向く。

「なんです。」
「あの、えっと、」

追いかけて来たはいいけど、全く話の内容は考えてなかったみたいで
肩から手を離しながらしどろもどろ。

「昨日の、その、ごめん、」
「何を謝ってるんです。」
「え、」
「別に私もう何とも思ってないですから。」
「…」
「無理にメール作らせてたみたいでスミマセンデシタ」

淡々と告げてまた歩き出そうとすると、また肩を掴まれる。

「ま、待って、その、」

何か言わなければという気持ちはあるみたいだけど、私はもうこの人と話すことはない。

「メールとかも、もういいですから。」
「で、でも、」
「ああ、てか、もう届きませんから。先に言っておきますけど。」
「え、」
「もういいですかね。そろそろ、帰りたいんですけど。」

初めて彼を見た時の言葉を真似てぶつけた。
ひどく傷ついた顔をした先輩の手から力が抜けて、私の肩から外れる。

「あほくさ。」

吐き捨てて、今度こそイヤフォンをして家への道を歩き始めた。

足音は、追ってはこなかった。

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