人気なんて出なくていいのに

小堀先輩が出たバスケの試合が、圧勝だったらしい。
何故知っているのか。
理由は2つ。

1つは目の前の彼女が嬉しそうに最近私の前で小堀先輩の話を只管するから。
2つめは

「(…また)」

彼女が勝手に先輩に教えたらしいメールアドレス。
知らないうちに、私と先輩はメル友になっていた。
毎日欠かさずにメールをくれる彼。
一体何を考えているのか。

中身は基本的に近況報告。
私は自分の話は極力しないから、ずっと先輩のターン。

メールの返信は、早くもなく、遅くもなく。
夜10時を超えれば返ってこなくなるし、朝も学校についてからしかメールは来ない。
私と彼の距離って、その程度のものだ。

さっきだって、勝ったことへの若干おざなりなおめでとうを送っただけなのに
そこからまだメールが続く。

≪ありがとう。常盤さんは、バスケとか興味ない?≫
≪あの子にマネージャーへ誘うように言われたなら無駄ですよ。≫
≪そうか、残念だな。バスケ、楽しいぞ?≫
≪遠慮しときます≫

この人の会話スキルやべえ。
こんだけこっちが切ろうとしてんのに、まだ話題探してくるか。
すげえなマジ。

「小堀先輩?」
「ん。」

恒例になった彼女との昼食を少しだけ中断してメールを返す。
彼女が怒ったらそれを理由にこっちから切ってやろうと思っていたのに
彼女は相手が小堀先輩だと分かってからずっとニマニマしながら私を見ている。
正直、居辛くてしょうがない。

「あんたから小堀先輩に言ってよ、メール無理に返してくれなくていいですって。」
「何でよ?小堀先輩結構楽しみにしてるのに。」
「は、意味わかんね。」

そうとだけ言って、携帯と共に席を立つ。
どこいくのーと間延びした声に、トイレと返す。

いってら、と短く送り出されて、私はなんとなくまたあの自販機の前を通っていた。
あの日ジュースを買いにでてこなければ…
思わずため息が出る。

と、またあの時と同じように渡り廊下から声。
前と違うのは、小堀先輩の話し相手が男子だったということ。

話相手は、バスケ部の先輩のようだ。
何て言ったかな…えぇと、ほら、あいつが呼んでたじゃん。
あぁ、そうだ、森山先輩。

「うぅ〜〜〜ん…」
「ほら、小堀早く返さないと。」
「わ、わかってるけど、」

携帯を二人で覗き込んで、何か話し込んでいる。

「なんて返したらいいんだよ。こんなの…もうネタないって。」
「ネタなんか作るんだよ!」
「も、森山〜…」

至極困った顔で森山先輩を見て助けを求めている。
森山先輩が仕方なさそうに溜息をついて、言葉を紡ぐ。

「≪今度よければ練習見にきてみないか?あいつと一緒なら来やすいだろ?≫とか。」
「でもこの話継続したらしつこくないか…」
「しゃーねーだろ!お前が次のネタ出せるまではこれで引っ張るからな!」

森山先輩の言葉に、小堀先輩が仕方ないか、と呟いて携帯をいじる。
先輩の手が止まってから数秒後。
私の携帯が震える。

開いたメールには、さっき森山先輩が言っていた言葉が一言一句違わずそのまま
書いてあった。

私は無表情で、返信画面を開いてメールを作成する。
送信すると、今度は小堀先輩の手の中で携帯が着信音を立てた。

「わ、」
「お!今回は早いじゃん。なんて?」

今回は、なんて。
今までの小堀先輩から来てたメールも、全部森山先輩が作ったものだったのが
まるわかりだ。
あの子の言うことは、間違ってなかった。

メールの中身を読んだであろう小堀先輩と森山先輩は、
おんなじようにびっくりした顔をしてる。
はっ、ウケる。

最早時代遅れになったガラケーをわざと音をたてて閉じる。

びくりと震えた小堀先輩が、こっちを見て。
目があった瞬間に、さらに顔色を悪くしてた。

なにか悪いことしてたのが見つかった時みたいな。

「常盤さん、」
「やっぱり、私あんたが嫌いだわ。」

私はそれ以外は何も言わずにその場を去った。

☆★☆★☆★☆★☆★

教室へ戻ると、彼女はいなくて。
他の女子の所へ行く気にもなれなくて、机に顔を伏せる。

このまま寝入ってしまおうと目を閉じたと同時に、
隣で喋っている女子グループの声が聞こえてくる。

「ねえ、うちの男バスって強いんだってね。」
「全国常連校だって。凄いよねぇ。」
「私笠松先輩メチャクチャタイプ〜」
「かっこいいよね、凛々しいっていうか〜」
「そー!」

きゃっきゃと煩い。
本当、耳障りだわ。

「でもさ、小堀先輩もかっこよくない?」

話題に上がった名前に、閉じていた目を開ける。

「確かに!いつもニコニコしてて素敵よね!」
「なのに試合に出てるときはキリッとしててさ!」
「ギャップだよねぇ」

何がギャップだ。
ただのお人よしじゃないか。

「背も高くて!」
「年上の余裕っていうかね!」

余裕だ?
メール1つ自分じゃ取り繕えない奴が?

我慢できなくなって、ポケットからイヤフォンを出して耳に突っ込む。
ああ、イライラする。

「湊?」

戻ってきたあの子が私を呼ぶ声がしたけれど、軽く手を振って返事を返す。

☆★☆★☆★☆★☆★

家につくと、携帯の電池が切れていた。
朝には満タンにしていったはずだったんだけど。
その話を母にすると、もう買い替え時なんじゃないのと言われた。

確かに、こいつももう長い。
折角変えるならスマホにするか、と何となく母親のスマホをいじる。
そこに丁度父親からメールが来た。
断りを入れてから開くと、今日は飲み会で遅くなるから夕飯はいらないという事と
申し訳程度だが謝罪がいれてあった。

母はなんという風でもなく、全くあの人ったら、なんて言いながら
小皿に父の分の夕飯を取り分けていた。

こんな何でもない家族間のクソどーでもいい内容ですら
自分で考えて自分で打って送ってるっていうのに。

無意識に小堀先輩を思い出して、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。
最近しかめっ面が多くなったと自分でも思っている。

イライラを振り払うように頭を振った。
明日は土曜日だし、さっそく携帯を変えに行こう。
この時代遅れなガラケーと共に、小堀先輩とのつながりも捨ててやる。

私は小さく決意した。

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