目があえば先に笑ってくれる

次の日の昼休み。
やっと昨日の違和感の答えがわかった。

あの平凡男子、2年じゃん。

友達と一緒に紙パックのジュースを飲みながら歩いていると
向こうから昨日の集団の一角が歩いてきたのだ。
昨日なぜ気が付かなかったのか分からないが、名札の色が2年生だ。
昨日のズボンは借り物だったのだろうか。
いや、そんな事はどうでもいい。

「マジかよ…」
「どーしたの、湊?」

思わず少し顔を歪めると、友達が不思議そうな顔で振り返ってきた。
慌ててにこりと笑顔を作ってなんでもないと返す。
そう?とまた前を向いた彼女が、あ!と声をあげる。
おいおい、まさか、嘘だろ勘弁してくれよマジで

「お疲れ様です!先輩!」
「おお。」

あろうことか彼女は笑顔でその集団へ挨拶した。
私のいないところでやってくれ。
思わず少しだけ離れていると、彼女が私に気付いて手を引く。
ちょ、マジでやめてブッ飛ばすぞおい。

「湊!この人たち私がマネージャーしてるバスケ部の先輩たちなの!」

バスケ部。
なるほど、背が高いのも頷ける。

「友達か?」
「はい!」

にこにこと私の腕を抱く彼女に、もはや張り付いた笑顔が取れない。

「湊です!」

確かに彼女とは一番一緒にいるし、私自身彼女のことは嫌いじゃない。
だから、いつもなら、きっと、この言葉もうれしいんだろう、が。
今はわりと本気でグーで手が出そうだ。
しかも彼女は私そっちのけで先輩たちと話を始めてしまった。
おい、おしゃべりするのはいいからその腕を離してからにしろ。

「なあ。」

彼女との話の輪に入らず、あろうことか平凡先輩は私に声をかけてきた。
昨日初見で「嫌いだ」と言い放った私に。
なんだこいつ。
心臓に毛でも生えてんのか。

「少しだけ、話いいか。」
「…なんです」

一応返した私に先輩はふんわりと笑って、私の腕を抱いていた彼女の手をやんわりと
はがした。

「小堀先輩?」
「笠松、森山。先行ってくれ。」
「?あぁ、わかった。」

平凡先輩は今度は私の手を引いて、中庭の方へ歩みを向けた。

☆★☆★☆★☆★☆★

「一体、何のつもりですか。」
「昨日の言葉の意味、ちゃんと聞けなかったから。」

座りなよ、と自分が座るベンチの隣を私に勧める。
仕方なく出来うる限り距離をとって反対側へ座る。
彼はやっぱり、苦笑い。

「さっきの、って言ってたよな。何を見て、俺を嫌いだと思ったんだ?」

マジこいつの頭どうなってんの。
まったく知らないやつに言われた八つ当たりの言葉なんて気にしなければいいじゃん。

「渡り廊下の、告白です。」

渋々と口を開くと、彼はそれに比例して目を見開いた。

「…人通りは、なかったと思ったけど」
「私、自販機に用があったので。」

顔はあくまでも手に持った紙パック。
無駄に成分表を読んでみたり。
その間も彼は、あぁ、とか、そっか、とか。

「その、悪かったな。気分を害したみたいで。」
「は、」

成分表から、反射的に先輩へ目線を移す。

「俺も、彼女には悪いことをしたと思ってるんだ。でも、答えられないのは、本当だから。」

こいつ、こんな顔して告白常連組だな。
下手に優しく断ると後々が面倒なのを知っていたのだ。
思い切りフることが、彼女へのやさしさだという事も。
だから、わざとあんな言葉を選んだ。
最後の謝罪が小さかったのは、罪悪感と、あの一言だけが、本当の彼の言葉だったから。

「…先輩、思ったよりモテるんですね」
「はは、うーん、どうだろう。笠松や森山からすれば全然だけどなぁ。」

完全に今の言葉は世の男子を敵に回した。

「俺は地味って言われるし、よくも悪くも普通なんだと思うんだけどな…」

思っていた感じの人じゃなくて、完全に度胆抜かれた。
確かに裏表のある人だったけど、私とは真逆。
人のためを思っての、裏表だった。

ぽろり、と手からパックが落ちる。
中身はとうに空だったので、レンガ張りの地面にあたって軽い音を立てる。

「ごめん、わざわざ連れ出してこんな話させて。」
「あ、いえ…」
「俺、小堀ってんだ。名前、聞いてもいいかな。」

私が落とした紙パックを拾いながら言われる。

「常盤…湊」
「常盤さんか。」

ヒュ、と空をきる音がしたと思ったら、軽く10メートルは向こうの距離にあるゴミ箱へ
これまた軽い音をたてて紙パックがダストシュートされていた。

「こんな話した後に言うのもなんだけど、よろしく、なんて。」

すこし照れたような表情で私に言った先輩に、思わず肯定の言葉を返した。

☆★☆★☆★☆★☆★

「湊おかえり〜」
「ただいま…」

教室へ戻ると、例の彼女が私を待っていた。

「小堀先輩が連れ去って行ったから、何かと思ったよ。」
「私も思ったよ。」

反射的に返すと、彼女は他人事とばかりにケラケラ笑った。

「いい人だったでしょ?」
「…そう、だね」

先ほどの言葉を思い出す。

『よろしく、なんて。』

はにかむ表情が、少し可愛いと思ったなんて。
あんな巨人男子が。

少し顔をしかめると、さらにカラカラと笑われた。

☆★☆★☆★☆★☆★

その日から、なぜか学校で会うたびににこりと人畜無害な笑顔を向けられるようになった。
こないだなんか、窓からたまたま下を覗いているところを見つかり、
1階から癒しオーラ満載ですと言わんばかりの笑顔で手を振られた。
何なのあの人。

「珍しいなあ、小堀先輩がこんなにバスケ部以外の相手に自分から親しくしてるなんて。」
「え?」

彼女が至極楽しそうに私の前で笑う。
あの一件から、やたらと仲良くなってしまった。
まぁ、悪くない。

「小堀先輩、あんまり自分から話しにいくような感じの人じゃないと思ってたんだけど。湊には積極的すぎるくらい挨拶したり、手振ったりとかしてるじゃない?」
「…そうなの?」

私の中では完全に平凡且つ変わり者となっている。
相反する言葉かもしれないが、それしかあの人を形容する言葉を知らない。

「湊はさ。小堀先輩どーなのよ?」
「は?」

どう、とは。

「だーかーらー、男の人としてってこと!」

本当、女子高生ってのはコイバナが好きだな。
私は他人には心内は漏らさないように心掛けている。
今回だって変わらない。

「何とも?」
「えー」

それに感付いているのか、彼女はそれ以上踏み込んで来たりはしなかった。

「小堀先輩と湊が付き合うことになったりしたらいいのになあ。」
「…なんで」
「そうなったら私と一緒にマネージャーしてくれる理由ができるでしょ?」
「ぬかせ。」

笑いながら、私はまた手元の紙パックのジュースに口をつける。
ありえない。

私は、あーいう平凡が服きて歩いてるようなのはゴメンだね。

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