出会いなんて最悪でした

高校に入学してから早2か月とちょっと。
やっとこさクラスの雰囲気もつかめてきて、友達もできた。
自分で言うのもなんだけど、私自身結構社交性はある方だと思う。

本当、自分で言ってりゃ世話ないんだけど
人よりは空気を読む事に長けていた私は、いくつかに分かれ始めた女子のグループの
どれにも属さず、かといって一匹狼にはならない
皆と万遍なく仲が良い関係を築いていっていた。

女子って本当面倒だ。
大人になればこんなこともなくなるのだろうけど
今を乗り切る術はこれしかない。

外面はできるだけ良く。
笑顔を絶やさず。
愚痴はこぼさない。

マイナスイメージは、自分の首を絞めるだけだ。

クラスのLHRで提出するよう言われて配られた自己紹介カードの
特技の欄に≪笑顔を崩さないこと☆≫と書いてもいいくらいだ。
いや、書かないけど。

提出は来週の月曜日だけど、できるだけ面倒なことは早く終えておきたい。
名前と出席番号を書いてから、一度シャーペンを置いた。

特技や趣味の欄は、できるだけ人当りがいいものが好ましい。
ゲームやアニメなんかは、当たる人には当たるけど、嫌う人もいる。
ハイリスクローリターンだ。

得意教科は、副教科をあえて選ぶ。
これは他の子は五教科から選出するであろうことを想定してのことだ。
「何で五教科じゃないの〜!?」と、くる。
これで会話の掴みはOKだ。
何より、ここで≪数学≫や≪英語≫なんて書こうものなら
テスト前に無駄に人の世話をやかなければならなくなるのが分かっている。

一番困るのはこの無駄にデカいフリースペースだ。
一体何で埋めろというのか。
しかしあまりにも真っ白のまま提出してこれが掲示でもされてみろ。
一気に空気の読めない奴のレッテルを貼られてしまう。

困ったものだ。

仕方なく残りを無難で塗り固めた答えで埋めてから、題材探しにと
財布を持って自販機へ向かう。
残ってプリントを書いていたので、そろそろ部活組も終わるところが出てくる時間だ。

「なーんかいいものないかなぁ…」
「わ、私…貴方がすきなの…」

自販機にお金を入れようとした瞬間、曲がり角の向こう側から女子の声。
おいおい勘弁してくれよ…そういうのはもっとベタに校舎裏とかでひっそりやってくれ。
これじゃジュースが買えんじゃないか。

イラッとしたので、顔を拝んでやろうとそっと曲がり角から顔を出す。
…おや、女の方はそこそこ美人だ。
背も小さくてふんわりカールした茶髪が高校生っぽくてかわいい。
はぁ、目の前でリア充誕生かよ胸糞悪い。

半分以上僻みも入った目線で、今度は男の方を見やる。

「(…は?)」

思わず声が出そうになった。

確かに、背は高い。
顔も、まあ、悪くはない。
Tシャツに下は何故か体操着の半ズボンなところを見ると運動部なのだろう。

「(え、なんであいつ…?完全に場違いっしょ。)」

勝手に品定めをして、女の方へ勝手につくことを決めた。
はー、よかったじゃん青少年。
見た目的には玉の輿だよおめでとうリア充への道へ。

そう思って顔をひっこめた瞬間。
信じられない言葉が聞こえて来た。

「ごめん。気持ちには、答えられない。」

完全に100%投げやりな祝福モードに入っていた私は思わず財布を落としそうになった。

「…理由、聞いてもいい?」
「……悪いけど、俺は君のこと、好きじゃないから。」

たっぷり間をあけて彼の口から出た言葉は、思ったよりも辛辣だった。
まぁ、そうなんだろうけども、いや、もっとなんかさぁ…

「部活が忙しいのもわかってるの!でも、諦めるなんてできない!お願い、お試しでもいいの、一度付き合ってみてから考えてよ!絶対、私を好きに「本当、悪いんだけど」」

美人ちゃんの必死の声を途中で遮って、彼は止めを刺した。

「そういうの、好きじゃない。何度来られたって、答えは変わらないから。…ごめん。」

小さく謝罪を入れると、とうとう女子は泣き出した。
そりゃ泣くって。
全然関係ない私でも辛いわ。

「…もう、いいかな。そろそろ戻らないと。」

彼は一度も振り返ることなく、私がいる方とは逆の方へ向かって歩いていった。
残されたのは、かわいこちゃんと、私。

☆★☆★☆★☆★☆★

結局ジュースも買わずに戻ってきた私の気分は最悪だった。
あいつのおかげで嫌なものを見てしまった。
…いや、勝手に見たんだけど。

机に広げ散らかしていた私物をまとめて、教室を出る。

マジありえん。
私ならあんな可愛い子を振るなんてしない。
しかも、あの制服、女子は2年生だ。
で、あのボケは1年生。
ズボンの色が私と一緒だったから間違いない。

「(くそが…)」

いつもは絶対に学校じゃ出さない顔をしながら一人昇降口を目指す。
と、向こうから男子の集団。

…なんだ、やけにでかいな

と、思ったところで気が付いた。
集団の一番後ろ、完全に平均を超えている巨人族の中でも一際目を引く長身。
少し困ったように笑いながらとなりの七三の男子と談笑しているあいつ。

さっきの平凡男子だ。

思わずぎろりと睨み付けていると、彼よりも先に七三が気が付いて
あまつさえ声をかけてきた。

「君!かわいいね!この後暇かな?!僕と一緒にお茶でもいかがかな?!」
「森山このボケ誰彼かまわず声かけるのやめろ!」

跳び蹴りをかまされた彼は、今の私にとってはどうでもいい。
私の目線は、平凡ボケから離れない。

「…?」

苦笑いが浮かぶ。
とりあえずへらっとけってのがまるわかり。
…これが本当にあの時辛辣な言葉ズバズバ吐いたあいつ?

「あの、何か…?」

耐え切れなくなったのか、彼が口を開いた。
あの時とは比べ物にならない柔らかい口調と声。
こいつも裏表作ってる人種かよ。

そう思ったところで、何となくわかった。

「君…?」
「マジ、ありえない。」
「え…?」

これは、同族嫌悪ってやつだ。

「さっきの、私たまたま見ちゃったんだよね。それ、友達の前でも作ってんの?」
「何を、」
「あー、いいや。どうせ私もだし。」

深い溜息と共にまたぎろりと睨み付ける。

「私、あんたのこと嫌いだわ。悪いけど。」

彼の言葉を借りるように吐き捨てると、真ん丸に目を見開いた彼の横をすり抜けて
自分の下駄箱へ向かった。

そこで、何かに違和感を感じた気がしたけれど
理由を探すほどの心の余裕はなかった。

ただその時の私は、言ってやったぞと知り合いですらないあの彼女に
勝手に誇らしい気持ちを向けていた。

[*prev] [next#]

[ 戻る ]






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -