奮闘記番外
合宿で相田に絡まれた森山が、どんな会話をしていたか。
俺たちだけで楽しむには面白すぎるから、お前らにも少し教えてやるよ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あの子の事。いつから好きなんですか?」
「…それ、答えなきゃいけないのか。」
「逃げられるとは思わない方がいい。笠松、目が試合の時と一緒だから。」
「お前なんでこういう時に…!」

女子は確かにこういった話が好きだ。
やれ誰がかっこいいだの、やれ誰と誰が付き合っているだの。
俺自身はあまり興味もなかったし、何よりきっかけすら作れないのが分かっているから
何とも思わなかったが、それが身内同士なら話は別だ。
いつも飄々としていて何を言っても暖簾に腕押し状態の森山がここまで狼狽えているのは
正直見ていてとても楽しい。

「で?いつから?」
「……2年の、真ん中くらいから。」
「俺たちがか?あいつらがか?」
「ッ俺たちが!!!」

投げやりに答える森山に、小堀もにやにやしている。

「何で好きになったんですか?」
「っ分かんないよ。気が付いたら、好きだなって思ったんだ。」
「「へぇ〜〜〜」」
「お前らほんとやめろよその顔!!」

にんまり。

効果音の付きそうな笑顔が引っこまない。
桐皇のキツネに腹黒いだのなんだの言われたが、今なら自分でも何となく頷ける。

「好きだなって気付いたきっかけは何だったんですか?」
「…」
「ん?」

森山がちらりと小堀を見る。
首を傾げる小堀に大きなため息をついてから、諦めたようにぽつぽつ話し出す。

「小堀が、やけにあいつを大切にするから。」
「?」
「中村や早川の事も大切にしてるのは知ってるけど、自然に頭撫でたり、距離詰めたりしてるの見て、なんとなく、やだなって、思った。」
「そうだったのか?」
「身に覚えがない。」
「お前はそうだろうな…」

深い深い溜息。
もう何度目かも分からないそれに、日向が続けた。

「え、もしかして小堀さんもあいつの事、」
「や、それはない。」
「言い切った!」

人当りの良い笑顔で手を横に振った小堀に、森山が今度は少し安堵を滲ませて溜息をつく。

「なんだよ。」
「俺、相手が小堀と笠松だったら、とっくに諦めてる。」
「確かに小堀さんも笠松さんも男前だもんなぁ。」
「木吉、やめろ。森山さんがリアルに凹んでるから。」

ぐったりと項垂れた森山に、次の質問が飛ぶ。

「告白とか、しないんですか?」
「…」
「?」
「踏ん切りつかねえんだよ。」
「森山はヘタレだからなぁ。」
「ちょ、」
「「何なら、あいつの方がずっとカッコイイ。」」
「わかる。」
「リコちゃんまで…」

どんどんベコベコに凹んでいく森山に、伊月が助け舟を出す。

「で、でも、かなり好感触ですよね?俺たちには向けてくれない笑顔とか仕草とか、あるじゃないですか。」
「でもそれは、俺たちに向けてるものであって…」
「あいつ、自分の懐に入れる人間の分別はしっかりしてますよ。」
「?」
「あいつのあの対応が出るのって、俺が知ってる限り海常の6人と、お兄さんたちだけですから。」
「伊月くん…」

じんわりと涙を浮かべる森山に、伊月が苦笑いながらエールを送る。

「少なくとも、あいつの中で特別だってのは間違いないです!もう一息ですよ!」
「まあ、それも俺たちと横並びってのは変わらねえんだけどな。」
「笠松が苛めるうううう!!!」

伊月がいれたフォローをことごとく打ち砕く。
そう簡単にはいかせやしない。

「でも、どーすんだよ。うかうかしてたら他の奴に掻っ攫われるぞ。」
「え、」
「うちにも既に予備軍がいるだろ。早川のあの懐き度がいつ恋愛感情に代わるかもわからないんだぞ。」
「う、」
「黄瀬もあいつに大分入れ込んでるしな。いいのか?あいつの方が確実にお前より持ち弾も的中率も多いぞ。」
「もうお前ら俺をどうしたいんだよ!!!」

嘆く森山。
さて、次はどうしてやろうかとにまにましていると、食堂のドアが開く音がした。

「…え、何、どうしたんです。」
「湊!!!!」
「おー、おかえり。」
「チッ、早かったわね…」
「おい、リコ聞こえてる。」

渦中の人物が戻ってきてしまったため、話は泣く泣く中断。
俺はそれなりに楽しめたから満足だが、相田はまだまだ不完全燃焼なようだ。

「うちの先輩苛めないでよ。」
「あら、まだ序の口だったのよ?」
「話も途中だったんだ。」
「…今回は小堀さんたちも敵だったんですね。」
「湊、帰ってきてくれてほんとありがとう…」

自分よりも10センチ弱小さい彼女に抱き着いてすり寄る森山に、溜息をこぼす。
何故あれができて告白はできないのか。
俺には理解ができない。

あやすように背中を撫でるあいつと、甘える森山を見てから小堀と目を合わす。
何だかんだ言いながら、俺も小堀も森山の手綱を握れるのはあいつだけだと思っている。
付き合う事になっても、うまくやっていくだろう。

俺たちはあいつから恋愛云々の話は聞いたことがないが、
こんなんでも、2人を応援しているのだ。

「うまくいく日がくるといいな。」
「くるかな。」
「さぁな。」

小声での小堀とのやり取りに、俺たちはまた小さく笑った。


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