戦争記でプロローグ2
高校へ入学して数週。
同じバスケ部を選んだ早川と、俺はなんだかんだ仲良くなっていた。
俺が特別何か話すとか、あいつが俺に気を使えるとか、そういうものではなく。
ただ何となく、一緒に過ごす時間が増えていった。

二人で過ごしていた休憩時間に、いつの間にか女子が当たり前に入るようになった。
まだこの時は「宮地」と名字で呼んでいたと思う。

いつも決まって昼練の後にそのまま体育館で昼食をとっていたから
彼女はいつのまにか弁当を持ってそこへ来るようになった。
今思えば不思議だが、俺も早川もなんとも思っていなかった。
それが、日常、俺たちの普通だったからだ。

いつもと変わらない1on1。
黙ってみているだけだった彼女が、珍しく口を出してきた。

「ねえ。」
「なんだ?」

汗を拭きながら顔をそちらへ向けると、彼女は至極不思議そうにしながら問うてきた。

「早川くんは背丈もそこそこあるし力もあるのに、何で中村くんが打ったボール追わないの?」
「「え?」」

思い返せば、今の早川があるのは良くも悪くも彼女のこの一言のせいだ。
…話を戻そう。

「打ったシュートは、絶対ゴールに入る訳じゃないんだよ?」
「そ(れ)は、分かって(る)けど…」
「何が言いたい?」
「ん―――…」

少し考えるそぶりを見せてから、言った。

「早川くん見てると、もうそのシュートが決まった後の事考えてるみたいな…」
「?」
「あー、だから、早川くん戻りは早いけど、その分リバウンドに弱いっていうか…」
「(リ)バン…」
「これはあくまでも、私個人の意見としてなんだけど。」

彼女が指摘したのは、早川の粘りの薄さ。
次への気持ちの切り替えと戻りの早さは、当時の早川の美点でもあった。
だが、もう少し放たれたボールを追っても良いのではないか、と。

「(リ)バンか…」
「中村くん、ヘイ。」

弁当箱を片付けて上履きのままコートへ入ってくる。
パスを出すと綺麗にドリブルをしながらゴールへ向かう。
早川が止めに入ったので、それを見ているとパスが返ってきたので
空気を読むようにわざと少し入らないところを狙ってシュートを打つ。

ガタン、と派手な音をたててゴールに弾かれたボールへ向けて2人が飛ぶ。

着地した時に、ボールは彼女の手の中にあった。

「何で…」

早川も不思議そうに首をかしげている。

「私も女子の中では高い方だけど、早川くんと比べれば15センチ近く差があるじゃない?なのに、なぜ、早川くんが取れないのか。ほい、中村くん。」

くるくると器用にボールを回しながら、クイズのように問いかけてくる。

「…跳躍力の違い、か?」
「跳ねた所で、15センチのハンデがあっちゃ、それを超えるには大分跳べなきゃいけないね。はい、早川くん。」
「え、」

何となく思い立ったことを出してみたけど、一掃された。

「ん―――――――」

うんうん唸ってはみるものの、これだという答えが出てこない。

「だめだ、答え教えてく(れ)。」

早川の降参の声に、俺も彼女を見る。

「色々あるけど、大きいのはタイミングだね。」
「タイミング…?」
「落ちた!って思ってとんじゃいけないの。」
「?」
「落ちた(ら)取りにいくものじゃないのか?」
「落ちてから飛んでたんじゃ、間に合わないの。」
「は…?」
「落ちるか落ちないかを見極める目が必要なの。あとは、ボールに手が触れてからの動きとかも重要になるね。」

ポケットから生徒手帳を出して、余白の白いページに図を書いていく。

聞けば聞くほど、本当によく考え、計算しつくされていると感じた。
早川もうんうんと途中まで納得しながら聞いていたのだが、
如何せんこいつは成績は(見た目によらず)良い方だが、バスケに関しては
本能でやっているところがある。

「ま、でも一番大切なのは「絶対取ってやる!」っていう気迫だね。」

最後のこの言葉だけを拾ったおかげで、早川はこの日から急に路線変更を始めたのだった。


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