口煩い兄を振り切り、色々条件付きだが秀徳から逃れることに成功した私は、
何かあっても帰りやすい所を、と
とても安易な考えで受けた海常高校に入学した。
中学はセーラーだったから、ブレザーは着慣れなくてもごもごする。
新しいのもあって、めちゃくちゃ動きにくい。
文武両道を謳う海常では、部活動への参加が半強制らしい。
一番楽そうなのは何処かなぁ。
帰宅部って言い張ったら通してくれないかな。
とりあえず、バスケ部だけ避けられれば
それでいい。
中学の3年間でもう十分だ。
一生分やった。
「なあ!」
机に頬杖をついていると、急に目の前へにょっきり頭が出てきた。
流石に驚いて目を見開きながら、あいての言葉を待つ。
彼は、だれだろうか。
「お(れ)、早川充洋!お前は?!」
「み、やじ…」
勢いに押されて名乗ると、早川くんは嬉しそうに笑った。
彼はどうやら次の移動教室の場所が分からず、私に声をかけてきたようだった。
後々名簿を見ると、あの場に残っていたメンバーで移動は私たちだけだったから。
まあ、いいかと彼と共に歩き出す。
隣に並んだところで、彼が思ったよりも高かったことに気がついた。
「早川くん、大きいね。何かスポーツしてるの?バレーとか。」
何故そこで自分や兄たちがやっていたバスケが出てこなかったのかは分からないが、その時は選択肢がそれしかなかった。
「いや、お(れ)は「おい早川、宮地!!少しは急がんか!もう始まるぞ!!」す、すみません!」
素直に謝る彼に助けられ、私もお咎めなしで自分の席につく。
私と早川くんの出会いは、こんな感じだった。
まさかもうこの時点で、一番避けて通りたかったバスケ部に一歩近づいているとは思っていなかったのだ。
ほんと、不憫な奴だと他人事のように今なら思う。