廃本丸番外@短刀と一緒
遊んでください、と呼ばれて私は短刀たちとかくれんぼをしていた。
彼らは皇のことも仲間と認識してくれているようで、私が鬼になるとあの子を連れて隠れに行ってしまった。

「………九十九、ひゃーく!行きますよー」

しっかり百数えきってから、私は開始地点である大きな桜の木を離れた。
今回かくれんぼに参加しているのは、今剣と小夜、乱に厚、彼らが引っ張ってきた薬研だ。
ああ、あと皇。

「さて、と…」

皇と、あの子を連れていった乱はすぐに見つけられるだろう。
長い付き合いだ、気配を追う事もあの子限定なら容易い。
ならば他の子たちを探しにでかけよう。

私はとりあえず、建物の方へ歩き始めた。

――――――――――――――――――


厨へ向かうと、いつものように歌仙と光忠がいた。
薪を確認する光忠と、ぱらぱらと土間でレシピ本を捲る歌仙に声をかけた。

「ふたりは、いつでもここに居ますね。」
「まあね。」
「何となく、落ち着いてしまってね。僕は部屋がすぐそこだから、あまり変わらないけれど。」

歌仙の言葉に、私も笑った。
自室と執務室は今は別々にしてあるため、正直私と歌仙の部屋は人の気配がしない。
歌仙はここ、私は執務室か皆の所を渡り歩いているから。

「君こそ珍しいね、何か食べ物を探しに来たのかい?」
「いえ、今短刀たちとかくれんぼの最中でして。」
「鬼なのか。」
「ええ。」

歌仙の言葉に頷きながら、光忠へ近づく。

「何だい?」
「そこ、変わって貰えますか?」

にっこり言う私に、彼は困ったように笑ってそこを退いた。
釜戸を覗き込むと、口元を手で覆った今剣がちょこんと座ってた。

「掃除したばかりとはいえ、ここに入るのは感心しませんよ。」
「えへへ、なんとなく、さいしょのころをおもいだして。」
「…また岩融に貴方を向けられるのは御免ですよ。」

手を取って外へ出してやって、着物についた煤を払ってやる。

「ああ、髪が下へずってしまってるじゃないですか…」
「あ、ほんとうだ。」
「終わったらお風呂に入りましょう。」
「いっしょにはいってくれますか?」
「えぇぇ…」
「…みずぎらいも、ほんとうにすじがねいりですね。」

毎日仕方なく風呂には入るものの、一人で入る時は湯船には浸からずに出てくる。
でも、彼らと入ったら石鹸でホッケーを始めたり、湯の掛け合いが始まったりして
結局長風呂になって湯冷めしないように一緒に湯船へ入ることになるのだ。
のぼせるし、水に浸かっていなければならないし、いいことがない。
…まあ、楽しいのは、そうなのだけれど。

「さて、次を探しに行きましょうか。」
「はあい。」

鬼は増えていくルールでやっているので、今剣を連れて厨を出た。

――――――――――――――――――――

「さて、と…」
「どこをさがしにいきます?」
「どうしましょうかねえ。」

残りの彼らが行きそうな場所を考えながら歩いていると、縁側でお茶を飲んでいる三日月と江雪に会った。

「三日月、江雪。」
「おや、どうした。」
「さよくんたちといっしょに、かくれんぼちゅうなんです!」
「少し、失礼しても?」
「ええ。」

にこにこと笑みを絶やさない三日月と、先ほどの光忠と似た表情を浮かべる江雪に
ぺらりと彼の袈裟を捲った。

「やっぱり。」
「あ!」

きゅ、と小さくなって自分の袈裟をかぶっている彼が現れた。
くすくす笑うと、今剣が彼をそこから引っ張り出した。

「さよくん、みーっけた!」
「…」

残念そうにのそりと起き上がる彼に、今剣が問うた。

「どうして、ここにしたんです?」
「…まよってたら、百数えきる声が聞こえて。慌てて隠れる場所を探したら、兄様が入れてくれた。」
「ふふ、残念でした。」

笑って言うと、江雪も微笑んだ。

「…ありがとう、兄様。」
「ええ。行ってらっしゃい。」

小さく笑って送り出され、鬼は三人になった。

―――――――――――――――――――――


「…」
「……」
「………」

私たちは、獅子の庭で彼と、探し人を見つけてしまった。
いや、まだ探したというほど彼を探していないのだけれど…

「ちがうって!!こうだったじゃん!!」
「ちげーよ!こっちが先だったって!!」

どうやら、最近朝早起きして見ている戦隊モノのテレビについて話をしているらしい。
私も彼らが可愛く並んでみているのに遭遇することも少なくないけれど、
特にあの二人は私の知る限り皆勤賞だったと思う。

「あ!」
「ちょうど良いところに!なあ、小夜、今剣!れっどの変身こっちからだよな!」
「違うよな!こっからのこうだよな!!」

私からしたら似たり寄ったりな変身ポーズをとるふたりに、今剣はこうです!と乗ったものの、小夜は呆れたように浅く溜息をついた。

「ほらー!やっぱこっちからじゃん!」
「違うって!ちょ、他のやつらに聞きに行こう!」
「…厚は隠れる気はあったんでしょうか。」
「……僕らをみてあの反応ってことは、もう大半忘れ去られてるかもね。」

とりあえず、ぽふ、と彼の肩を叩いて「つかまえた」と言うと、ぽかんとした表情をした後やっと思い出したように「あ!」と声を上げた。
獅子はかくれんぼをしていたことすら知らなかったようで、聞いた瞬間爆笑していた。

―――――――――――――――――――

さて、やはり乱を除いて残ったのは薬研だった。
一筋縄ではいかないかもな、とは思っていたものの本丸の粗方は探し終えてしまった。

「どうします?」
「んー、どうしましょうね…」
「まだ探してねえとこ、あんじゃん。」

厚の言葉に、私は首を傾げる。

「俺なら、一番に探しにいくけどな。」
「?」




厚を先頭にそこへ辿り着いて奥へ入ると、確かに彼はそこにいた。

「な。」
「本当だ…」
「さすが、きょうだいですね。」
「ああ、見つかっちまったか。」

別段残念そうでもなくあっけらかんと言った彼は、書庫の奥に立てかけた、上段の本を取るのにつかわれる脚立の上へ座っていた。
眼鏡をはずして笑う彼は、脚立の足へ腰を預けて同じく本を開いていた長谷部に声をかけた。

「悪い、これ持ってくれ。」
「降りるついでに、その隣取ってくれ。」
「これか?」
「ああ。」

本を数冊長谷部へ渡して、彼はひょいと降りて来た。
長谷部から本を受け取って、私たちを見遣る。

「…乱は?」
「まだ。」
「これからです。」
「そうか。」

邪魔したな、と薬研が長谷部に一言かけると、彼は視線は本から外さずにひらりと手を振った。


―――――――――――――――――――――

「それじゃ、お姫様を迎えにいくとしましょうか。」
「待ちくたびれてるかもしんねえな。」
「ヘソ曲げたあいつの相手するのは、なかなか難関だぞ。」

四人を連れて、私はとある部屋の前へ立った。
この時間なら一番日当たりがよくて、かつそこに居ても煩く言わない人。
ここしかない。

「宗三、いますか?」
「ええ。」

丁度戸の傍に居たらしい彼が、中からそっと開けてくれた。

「遅いですよ。寝てしまいました。」
「はは、ごめんなさい。」

障子に透けてぽかぽかと日が差すそこに、乱は皇を抱いてすやすやと寝息をたてていた。

「ここはぬくいですね…ねむくなっちゃうのもわかります…」
「俺も昼寝するー。」

乱の隣へごろんと寝ころんだ今剣と厚、小夜は宗三の隣へ寄って行って遠慮がちに彼の膝へ頭を預けた。
薬研は小夜の宗三を挟んで反対側へ座ってさっき持ってきた本を開き始めた。

かくれんぼはここでおしまいのようだ。

私は小さく笑って立ちあがった。

「掛布を持ってきます。ついでにお茶を淹れてきますね。」
「僕の分もお願いします。」
「俺っちも。」
「はいはい、分かってますよ。」

宗三がさらりと小夜の頭を撫でたのを見届けてから、私はひとまず厨へと足を向けた。


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