僕と私の戦争記
やっとこさ離れた2人を半ば引きずりながら、6人と帰宅路を辿る。
170センチの私でも、このメンバーの中なら小さく見える(らしい)。
一番近い笠松さんでも8センチ違う。
森山さんや小堀さんたちからしたら似たり寄ったりらしいけど、
笠松さんはこの8センチをとても気にしてる。
バスケをするメンバーの中では決して高いとは言えない身長だけど
平均よりは高いだろうのに。
少し不憫だ。

「腹減ったなー」
「ですね。」
「どっかで食って帰りませんか?マジバとかよって。」
「いいな。」

黄瀬くんの言葉に珍しく皆が参加の意思を述べたところで、彼は私を振りかえった。

「湊さんも、行きますよね?」

数週間前から考えたら、やたらとなつかれたもんだ。
まぁ、毎日マンツーマン繰り返してれば、こうなるか。

「そーだね、帰って作るのも面倒だし…」
「湊さん、一人暮らしなんスか?」
「実家は東京だからね。」
「そっか。」

アパートだけど、このメンバーはよく泊りに来る。
母は知ってるけど、この事実を兄たちが知ったらそれこそえらい事になる。
いつも雑魚寝になるから、うちは年中絨毯だ。
上布団だけはやたらある。

「今度また湊の飯食いたいなぁ。」

何の気なしに言った小堀さんに、黄瀬くんが食いつく。

「え!家行ったことあるんスか!?」
「よくお邪魔してるよ。」
「テスト期間の土日はよく泊まり込みで勉強会だもんな。」
「湊の料(理)はうまいぞ!」
「狡い!!」

黄瀬くんが膨れて私を見る。

「今度は一緒にね。」
「!」

ぱあ、と至極嬉しそうな笑顔を向けてくれるから、弟ができたらこんな感じかなとか考える。
絶対っスよ、と念を押されて、はいはいと返事をする。
足をマジバの方へ向けた所で、携帯が鳴る。
先輩方に断わりを入れて、集団の一番後ろへ下がってから電話に出る。
主は、2人いる兄のうちの1人。

「もしもし?」
『もしもし、湊か。』
「うん、どうしたの?」

私と裕くんは双子だ。
裕くんは、清兄を追って秀徳へ進学したから、連絡を取るのは久しぶりだった。

『今、どこだ。』
「?帰ってる途中。」

珍しくすこし焦った声が伝わってくる。
何かあったのだろうか。

『海常のメンバー、一緒か。」
「うん。これからマジバ寄って皆で晩御飯食べて帰ろうかって言ってたとこ。」

私の一列前を歩いている小堀さんと森山さんが完全に電話の向こうを窺ってる。

「どうしたの、裕くんが電話してくるなんて珍しいね。」

わざと裕くんの名前を出すと、先輩二人の雰囲気が少し緩む。
なんとなく、甘やかされてるなあと感じる。

『悪いことは言わねえ。真っ直ぐ家帰れ。今すぐ海常の人たちから離れろ。』
「え…?」

思わず足を止めると、小堀さんと森山さんも同じように止まる。
前の4人は気づいていないようで、談笑しながらどんどん歩いていく。

「どういうこと。」

清兄の海常への意味の分からない敵対心が伝染ったなら今のうちに払拭しておかないとと少し低い声で尋ねる。
が、裕くんは私の見方だった。

『兄貴が、お前んち行くって出てった。』
「は!?」

反射的に出た声に、少し行ったところで他のメンバーも足を止めた。
なんだなんだと小堀さんと森山さんが携帯へ耳を近づける。

『明日、うちと練習試合だろ。前乗りでって大坪さん言いくるめて出ていったんだ。』
「ちょ、急に、困る」
『悪い、その話してた時俺便所行ってて知らなかったんだ。俺も今から追う。』
「わ、わかった、」
『急で悪いけど、俺と兄貴と泊めてくれ。時間的に着くまで兄貴でもまだ30分くらいかかるだろうから、早く帰って海常の人たちの痕跡消せ。いいな。』

裕くんは海常の人たちがうちに出入りしているのを知っているから、わざわざ連絡してくれたんだ。
それに清兄の事だ。
このままいけば清兄が着くのが8時半頃。
過保護すぎるくらい過保護な兄なら絶対に探しに来る。
そこで今の状況に鉢合わせようもんなら、戦争になる。
いつもは止めてくれる裕くんや大坪さんがいない以上、乱闘になる。
主に清兄と早川くん、中村くんと。

「わかった、すぐ帰る。駅ついたらもっかい連絡してくれる?」
『あぁ。駅で合流できると思うから、兄貴に連絡入れさす。先輩、一緒か?』
「うん。」
『誰でもいい。一番近い人に代わってもらえるか。』

裕くんの言葉が聞こえていたのか、小堀さんが手を出したので素直に渡す。

「もしもし、小堀だ。」
『小堀さん、お久しぶりです。妹が世話になってます。』
「いや、よくやってくれてるよ。助かってる。」
『ありがとうございます。その、申し訳ないんですけど、うちのバカ兄貴が飛び出していったんで、今日は湊借ります。』
「ああ、話は聞こえてた。」

小堀さんと裕くんの溜息が同時に聞こえる。

『じゃあ、俺も電車乗るのでここで失礼します。』
「あぁ。お前も大変だな…」
『本当っすよ…明日、よろしくお願いします。他のメンバーと、笠松さんにもお伝えください。』
「あぁ。こちらこそ。」
『じゃあ、失礼します。』

ぷつ、と切れたことを確認してから携帯を返す小堀さん。
裕くんが先輩相手に自分から切るってことは、よっぽど切羽詰まってんなこれ。

「裕也くん、本当しっかりしてるな。」
「どっちが兄貴かわかんねぇな。」
「うちの長男は裕くんですから…」

3人で溜息シンクロしてから、他のメンバーに断わりを入れて家へ向けて走り出す。
2年組と黄瀬くんはちょっとむくれてたけど、仕方ない。
背に腹は代えられない。

家について急いで部屋を片付け始める。
元々綺麗に保つようにはしてるけど、一応掃除機かけてから皆が最早置いていっている
それぞれの着替えを、全部まとめて段ボールに突っ込む。
「冬服」と見えるように書いておくのも忘れない。
これは裕くんに言われてやるようになった。
清兄は完全に疑ってかかってるからと。
流石に勝手に開けることはしないだろうけど、念には念を入れておけと。

歯ブラシとか、コップとか、皆が置いていくものを同じ段ボールへ詰める。
こう思うと、皆うちを隠れ家か何かと思っているのではないかと思えてくる。
皆が定期的に来てくれるから一人暮らしでも寂しくないのは、そうなんだけど。

すべてをクローゼットへ突っ込む。
あまり奥へ入れてしまうと余計怪しまれるとのお達しを受けたので、
中途半端なところへわざと少し見えるように入れておく。
これも、裕くんの入れ知恵。

…裕くん、家で何かくしてんの。

クローゼットの扉を閉じた所で、携帯にコール。
最寄り駅へついたという連絡。
とりあえず間に合ったようだ。

溜息をつくと、笠松さんからLINEに連絡。

『今度は一緒に来い。アホ共がうるせぇ。』という言葉と、笠松先輩以外が映った写メが送られてきた。
不満そうに何かを話している黄瀬くんと早川くん。
無でポテトを貪っている中村くん。
抜かりなく決め顔で映っている森山さんに引っ張られて映り込んだであろう小堀さん。

すこしだけ寂しい気持ちもあるけど、今回は非常事態だ。
仕方ない。

『次は必ずご一緒します』と打ったところでチャイムが鳴ったので、
それだけ返してホーム画面へ戻した。
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