僕と私の戦争記
「湊!!」
「うわ、びっくりした…どうしたんです、皆さんおそろいで…」

丁度最後のタオルを畳み終えた所だったらしい。
俺たちにそれぞれジャージを手渡しながら聞いてきた。

「明日、秀徳と練習試合って、本当か。」
「えぇ。」

浅い溜息。
めんどくさいと顔に書いてあるが、致し方ないと腹を括っているようだ。

「明日来るのは、1年生を交えた新体制の秀徳レギュラー陣です。」
「…一応聞いておく。レギュラーは…」

ちり、耳のイヤリングを触ってから答える。

「1年生にキセキの世代、緑間真太郎と高尾和成。
 2年は、出てくるかはわかりませんが宮地裕也。
 3年生は、昨年と同じ。大坪、宮地清志、木村の3人です。」

黄瀬はいまだ何も分からない状態なので只管に話を掴もうと頭を捻っている。
他のメンバーの表情は、皆同じだ。

面倒なことになった。

この一言に尽きる。

「どうする。」
「どうするっつったって…決まっちまったもんは仕方ねぇだろ。」
「前回は昨年の3年が抜けたばっかのチームだったから勝てたけど、今回はそう簡単にはいかないぞ。」
「…策は、明日までに考える。」
「俺たちにできることは1つだ。」
「必ず勝つぞ。負けるわけにはいかねえ。」

気迫がやばい。
完全に練習試合のそれじゃない。
と、ここでとうとう黄瀬が痺れを切らした。

「一体どういう事っスか!俺にも教えてほしいッス!」
「ん、あぁ、そうか。」

小堀が思い出したように言った。

「明日の秀徳戦。まぁ、やればわかるとは思うがうちとは因縁対決と言ってもいい。」
「は?」
「キセキの世代が入ってる。うちにもお前がいるが、一筋縄ではいかないだろう。」
「だが、それ以上に厄介なことがある。」
「何なんスか、もったいぶらずに教えてほしいッス。」

眉を寄せて言った黄瀬に、中村が答えた。

「衆徳には、湊の兄さんがいる。」
「は、え、お兄さん、?」
「あいつは湊を秀徳へ入れたかったらしい。それなのに海常へ来て、あまつさえ俺たちのマネージャーをしてると知って、毎回血走った目で向かってくる。」
「………湊さんの、名字って、確か、」

「…宮地、だけど。」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

6人が輪を作って明日のフォーメーションとかの確認をし始めたので、
私は仕方なく体育館の片付けへ向かう。
あの様子じゃ全部おいてきたんだろうし、今日はもう練習はしないだろう。

シュート練をしていたらしい。
床にはたくさんボールが転がっている。
拾い集めながら、籠へ投げ入れていく。
コートでいう3Pラインを越えた所で、調子のよかったボールがガシャンと音を立てて
外へ弾かれた。

「…」

このくらい、昔は入ってたのに。
やっぱりやらないと鈍るなぁ。
入らなかったやつは後で拾うとして、他のボールをまた投げ入れる。
入らないものもいくつかあったけど、大体はちゃんと入った。
出てしまった分を拾ってから、倉庫へボールを仕舞う。
ボール籠の代わりにモップを持って出る。

と、壁にもたれる人影。

見上げると、珍しく眉間にこれでもかと皺を寄せた早川くんだった。

「話し合い、終わった?」
「…ん」

いつもの元気はどこへ行ったのか。
秀徳との試合前は彼はいつもこんな感じだ。
手伝うと言ってくれたので、持っていたモップを渡して、自分はもう1本を出して端から並んでかけ始める。
とりあえず、無言もあれだからと当たり障りない話題を出していく。
いつもなら太陽みたいに眩しい笑顔を向けてくれるのに、
今日は「ん」とかばっかり。
どうしたものか、と困っていると、急に早川くんが足を止めた。
ふいに引っ張られたTシャツの裾に、私も止まって振り返る。

「絶対負けない。」
「うん。」
「絶対、絶対負けないか(ら)。」
「うん。」

これも、毎回のやりとり。

「湊を、秀徳にやった(り)、絶対しないか(ら)。」
「うん、私も海常から出ていく気はないよ。」

テンプレと化してきている返答をすると、やっと表情がちょっと緩んだ。
Tシャツを離して、覆いかぶさるように抱き着かれる。
倒れそうになるのをぐっとこらえて、背中を優しくたたく。

「湊、お(れ)、湊が好きだ。」
「うん。」

早川くんと中村くんはよく私に好きだというけれど、
この言葉が別に恋愛的な意味を含んでいるわけじゃな事をちゃんと知っているから
私も2人の言葉に甘んじている。

「私も、早川くん好きだよ。」
「他の先輩たちや、黄瀬も?」
「勿論。」

肯定すると、早川くんが至極嬉しそうに笑った。

「明日、勝とうね。皆で。」
「あぁ!」

大好きな笑顔が返ってきたところで、反対側から別の衝撃。
少し、甘い匂いがする。

「中村くんもね。」
「勿論だ。」

間に挟まれて少し苦しいけど、それでも拒むことはしなかった。
視界の端に、仕方ないなと言わんばかりの3年生と驚いた表情の黄瀬くんが見えるけど
今は見えないふりをしておこう。

「負けていい試合なんてない、勝ちに行くよ。」
「「ああ!」」
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