僕と私の戦争記
今日の分の練習を終えて、スタメンたちだけが居残りをしているらしい。
私は部室に置いたこの間の誠凛戦のDVDを探していた。

「あれぇ?」

ない。
DVDは私が使うから皆気をつかって比較的低い棚へ置いておいてくれるのに。
段ボールごと行方不明だ。
きょろきょろとあたりを見回すと、選手用のロッカーの上に乗っかっている。
しかも、3段になっている一番上。
誰だよあんなとこ置いたの。
嫌がらせか。

「あー、湊いたいた」
「森山さん。」

どうやら私を探していたようで、部室までやってきた。

「何してんだ?」
「あれを。」

私の字で「DVD」と書いた段ボールを一緒に見上げて、あー、と声を出す。
残念ながら森山さんの身長じゃ、あそこは届かない。
上に乗れそうな椅子も、誰かが持って行ってしまったみたいで今はない。
あるのは備え付けになっている机のみ。
そこからじゃ、届かない。

「「…」」
「小堀、呼ぶ?」
「でも、練習してるでしょうし…」

そこまで言って、じっと森山さんを見つめる。

「…なんだ」
「森山さん、この間ゴール裏に挟まったボール取るのに笠松さん肩車してましたよね。」
「え、うん」
「私も乗っても大丈夫ですか。」

森山さんの身長があれば、私でも上乗れば取れる。

「いいけど…お前、恥じらいとかねーの」
「恥じらい?」
「…いや、なんでも」

溜息をつかれた。
なんだよ。

「あ、肩車しろとは言わないんで。」
「は?」
「そこへ膝に手ついてかがんでください。」

ロッカーの真ん前へ森山さんを立たせて、自分は靴を脱いで机へ乗る。
いきますよ、と声をかけてから机を蹴った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

恐ろしく柔らかく俺の肩に着地した湊。
かかった体重に少し体が沈むけど、持ち直す。
男持ち上げるよりはずっと軽い。
これでも、小堀でも一応持ち上げられる。

「取れそうか?」
「もう少し、右寄れます?」
「右、」

そのままの体勢で1歩右へ寄る。

「あ、OKです。」

かかる重さが少し増したところを見ると箱は取れたようだ。
さて、降りやすいように体を反対へ向けようとしたときに、ガチャリと部室のドアが開いた。

「「あ」」

俺とドアを開けた笠松の声がそろう。

「おま、何してんだ!」
「や、箱取りたいって言うから。」
「小堀呼べバカ野郎!!」
「だって湊が呼ぶのは申し訳ないっていうから!」
「あ、ちょ、森山さ、」

思わず上体を起こすと、頭上からゴンと低い音。

「「あ」」

二度目のシンクロ。
低くなる重心。
俺の上に乗っていた湊が天井に頭をぶつけたらしい。
俺の頭に箱を乗せて、それに顔をうずめて悶えている。

「ご、ごめん、大丈夫か」
「へ、いきです…」

近寄ってきた笠松に辛うじて箱を渡すが、俺の上から降りる気配はない。
思い切りいったな、こりゃ

「マジ大丈夫か。降りれるか?」
「…」

少し待って、と俺の肩にしゃがみこんだまま頭に額を乗せている。
いつもは早川が乗せているから、勝手がわかってなかった。
小刻みに震える彼女の重さが、そっと笠松に下ろされる。
余談だが、湊は唯一笠松が自分から寄っていける女子だ。

「しっかりしろ。」

女子にしては背が高い湊は笠松とほぼ変わらない。
だが、こうやって抱き上げられているのを見ると、やっぱり女の子なんだなと再確認。
や、知ってたけど。

「いたい…」
「森山は俺が叱っておく。」
「俺のせいかよ。いや、俺のせいか。」

反射的に言ったけど、今回は俺が悪いな。うん。
俺より少し低いところにある頭を優しくなでる。

「ごめんな。」
「だい、じょぶですから…乗せてくださってありがとうございます…」

律儀に礼を述べる彼女に、溜息交じりに笑った。

「何取ってたんだよ。」

笠松が片手で湊を抱いたまま器用に箱をあける。
そこには今までの試合のDVD。
湊が管理しているものだ。

「なんでDVDがあんな上に…?」
「さぁ?いつもはもっと下にあるんだけどな。」

二人で首を捻っていると、やっと復活してきた湊が笠松にも礼をいいながら
おりる。
そこに丁度早川と黄瀬がやってきた。

「せんぱーい、湊さん見つかったッスかぁ?」
「湊ーどこだー」

がちゃ、と開いた扉。
若干涙目の湊を見て早川が「まさか」と眉間に皺を寄せたが、
俺が慌てて弁解を入れる。
先ほどあったことをかいつまんで話すと、早川の目が戻った。

よかった。本当によかった。
2年二人の湊大好き病は1年から治らねえな。

「あれ、これ」

黄瀬が段ボールを見て声をあげる。
嫌な予感しかしない。

「また下ろしたんスか?こないだ机の上にだしっぱになってたからロッカーの上にあげたのに。」

いかん。
湊の頭の血管が切れる音がする。

そう思った瞬間、湊が光の速さで放ったDVDが黄瀬の額を直撃した。
角イった。あれ。

騒ぎ出したエースとマネージャーを見て、溜息をついて。
この場を早川と笠松に任せて、俺はうちの良心を呼びに足を体育館へ向けた。
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