僕と私の戦争記
「え、?」
「だから!納得いかないっス!!」
「そう言われても…」

私は朝一から絡まれていた。
絡んできたのは、ド派手な頭の1年生。
これがうちのエースになのだと言うのだから、今から頭が痛い。
毎年毎年、うちには難癖のあるメンバーばかり集まるようだ。
あぁ、でもお兄ちゃんの所にも問題児が入ったと渋い顔をしていたな。
強豪校と呼ばれるところには洩れなく多かれ少なかれ癖の強いメンバーが集まるみたいだ。

…きっとこれを先輩方に聞かれたら、その“難癖のあるメンバー”に私も含まれるのだと
溜息をつかれる。

「聞いてるんスか!」
「あぁ、ごめん。」

完全に話が違う所へとんで行っていた私は目線を彼に戻す。
彼が膨れっ面をしているのは、恐らく先ほど笠松キャプテンから言い渡された事が原因だろう。
しかし、抗議するなら私じゃなくて笠松さんの所へ行ってほしい。

「なんで!アンタが!!俺の教育係なんスか!」
「…そういわれても」

もう何度目か分からない同じ返事を返す。
私だって不本意なのだと突っかかって行きたくなるのをぐっと抑える。
私は沸点が低い。
昔お兄ちゃんとマジ喧嘩をして血が出るまで殴り合いをしたこともある。
…流石に他人にまで手はあげないけど、でも機嫌が悪くなるのは早い。
それを抑えるためにとお兄ちゃんに貰った涙型のイヤリングを触る。
私がイライラを抑える手段の一つだ。

「中学も高校も…何で俺につく教育係ってのはこうなんスか…」

彼的には、レギュラーである他の5人のうちの誰かが付くのが望ましかったのだろう。
と、いうか入部してから1か月ほど経ってこの間誠凛に負けたばかりの今
なぜ急に教育係が付くのか、といったところか…

「私だって、マネージャー業に専念できるならそうしたいよ…」
「ならアンタから先輩方に言ってくださいよ!」
「直談判に行ったら、」
「俺が行ったって取り合ってくれなかったッス!」

一応行ったんだ。
あぁもう、なぜ私にこんな面倒事を押し付けてくれたのか。
先輩たちの事はとても信頼しているし、尊敬もしているけど
本当今回ばかりはマジで怒りに行ってもいいと思う。

「黄瀬」
「!!」
「先輩、」

体育館を出たところで押し問答を繰り返していた私たちの所へ先輩方がやってきた。
どうやら前にも後ろにも話が進まないのを見て、小堀さんが助け舟を出すように言ってくださったんだろう。
…もう少し早く来てほしかったとか、贅沢は言わない。

「笠松先輩!やっぱ納得いかないっス!」
「贅沢言うな。湊が付くのは特別なんだぞ。」
「なら森山先輩がついてもらったらいいじゃないっすか!」
「いや、それはいい」

食い気味に否定してんじゃねーよ。
おっといけない、先輩に対して。

「俺たち2,3年はもう1年一緒にいるんだ。彼女の凄さはお前よりはずっとよく知ってるさ。」
「でも!教育係につくってことは、俺の練習もこの人が見るってことッスよね!?」
「そうだ。」

え、なにそれ聞いてない。

「勿論、普通の練習はスタメンの方に出てもらうさ。」
「が、全員でやる基礎練の時は湊とだ。」
「「は!?」」

思わず黄瀬くんを押しのける勢いで先輩に詰め寄る。

「ちょっと待ってくださいよ!困ります!」
「俺だって嫌ッス!」
「私には今までと同じようにマネージャー業もあるんですよ!?」
「マネージャーに教わるようなバスケは無いっス!」
「基礎練してる間にやる仕事だってあるん「湊、そろそろ。」…」

そっと止めに入ってきた小堀さんに、そっと目線を笠松さんへ向ける。

「言いたい事はそれだけか?」
「……」
「休憩が終わったらミニゲームを始める。用意を頼む。」
「…はい」

黄瀬くんとの言い争いはもう進まないだろうし、私は仕事に戻ることにした。
戻るときに森山さんと小堀さんに宥めるように肩を叩かれる。
…先輩方に免じて今回は引いてあげる。
愛用しているマリンブルーのファイルと、お揃いのノートを小脇に抱えて体育館へ戻った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…黄瀬」
「…はいッス」

湊さんが見えなくなったのを確認してから、笠松先輩が口を開いた。

「あいつは俺たちが認めた奴だ。バスケ部にいるのだって、俺たちが態々引き留めて残って貰ってる。」
「…は?」

態々、マネージャーを…?

「何で、試合にも出られない、マネージャーを…言い方がアレっスけど、代わりなんて」
「あいつは、俺たちにはなくてはならない存在なんだ。」

言葉を途中でぶった切って森山先輩がいう。
それを小堀先輩がつないだ。

「元々帰宅部だった彼女をここへ引き込んだのは俺たち3年だ。」
「それだけ俺たちはあいつの力を買ってる。」
「はぁ?」

スタメンの3年生が、揃いも揃ってあの人の肩を持つ。
何なんだ、いったい。

「でも、」

食い下がろうとしたところで、体育館の中から休憩終了のホイッスルが聞こえた。

「行くぞ。」
「先輩!」
「少し我慢しろ。なぜお前にあいつを付けたのか、すぐわかる。」

いつもの自信満々の目線が俺を黙らせる。

「ほら!練習練習!いくぞ!」
「…はいっス」

まだまだ納得はいかないけど、先輩の言うことをとりあえず黙って聞いておくことにした。
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