僕と私の戦争記
「「だははっははははははっはははは!!!!!!!!!!!!!!」」
『笑い事じゃないです!!!!!』
「あーあ…」
「無理にフルで使ったりするからですよぉ…」

上2人は他人事とばかりに大爆笑。
呆れる紅に、溜息をつく1年生。
他のメンバーは完全に置いてけぼりだ。
湊の声やプレースタイルを知っているのは今の所は選手勢では海常の6人だけなので
当たり前と言えば当たり前なのだけれど。

「お、おい、湊…」
「本当に戻んないのか?」
『戻そうとしても自分の元の声が分かんなくなっちゃって、』
「おいやめろ。早川のままか細い声だすな。」
『じゃあ誰だったらいいんスかぁ!』
「黄瀬もやめろ!イライラが増える!」
「『ひどいッス!!』」

とりあえず、という事でリコの声を借りて、話をする湊。
他のメンバーの男声よりはましだろうという事になった。

「中身は、戻ってきてるよね?」
『戻ってる…いつもと変わらないよ。』
「とりあえずご飯食べに行こう。そこでどうするかも考えればブフッ」
『紅ィィィイィイィィィィ!!!!』
「「「どうどうどうどう」」」

笑いがこらえきれない紅に、湊が殴りかかろうとするのを
海常組が3人がかりで止めに入る。

とりあえず歩き出して、一番に目に入った和食チェーン店に入る事になった。
大人数だったにも関わらず、部屋の用意をして入れてもらえた。
湊は紺と一緒に、わらわらと固まって座った各校の1年生が集まるテーブルへおさまった。

「いつもはどうしてたんスか、鈴ヶ丘の時もやってたんでしょ?」
『さっきも言ったけど、基本的に後半しか使えないの…フルで使ったのは、今日が初めてよ…』
「すげぇな。」
「ああ。本当に、カントクそのものだ。」

誠凛のメンバーがしげしげと湊を見る。
少し居心地が悪そうに、運ばれてきた水の入ったグラスに口をつけた。
色々頼むのも面倒だということで、しゃぶしゃぶの食べ放題を全員でつつくことになった。
いくつもの鍋が運ばれてきて、着々と用意が進む。

「他のメンバーも変えられるのか?…です。」
『ここにいるメンバーなら、大体はな。』
「おお、俺だ…」
『自分じゃないところから自分の声が聞こえるのは、不思議な感じがするだろう?』
「今度は木吉先輩!」

火神のリクエストに乗った湊に、主に1年生たちが無茶振りを始める。
湊も仕方なさそうにそれに乗った。

「どうやったらそんな事できるんですか!?黒子で!」
『生まれつきです、練習したとかじゃないんですよ。』
「コツとかあるんですか?青峰くんで。」
『誰にだって声には特徴があるだろ。それをいかに自分に取り込むかって話なだけだ。』
「昼の試合で見せた海常の奴らの技、今も出来んのか?緑間で。」
『俺は黄瀬ではないからな。入れ替わっている間しかできないのだよ。勿論、人事は尽くすがな。』
「すごいすごい!真ちゃんだ!俺も、俺も!」
「鈴ヶ丘にいた時にも、それやってたんですよね?私大分調べましたけど、あの≪幻の1年≫の事は勝敗くらいしか出てきませんでしたけど…」
『3年も前の事っしょ?1年間しか出てない俺たちの事が映像で残ってることはねーと思うけど?』

桃井の質問に高尾の声で答えて、溜息まじりに笑う。
声は、リコに戻ってきた。

『むしろ勝敗だけでも出て来た事が驚きだわ。』
「…貴女たちが鈴ヶ丘でプレーしていたのは、1年間だけだと聞いています。鈴ヶ丘としての最終戦は、冬の大会が終わってすぐにあった練習試合だったと。」
『ええ。』
「では何故。その練習試合の事は勝敗はおろか、相手校の名前も出てこないんです?」

大きな桃井の目が、湊の目をじっと見つめる。

「たった1年だったとしても、それだけ注目された学校の、しかも中学1を取ったすぐ後の試合の戦歴が出ないなんておかしいです。」
『…』
「その試合から、急に貴女たちがバスケ部を離れたことも腑に落ちません。」
『紺から聞いてないのかな。怪我人が出たんだ。元々ずっといるつもりもなかったし、丁度いいと私たちは退いた。それだけだよ。』
「それでも、バスケ部がおいそれと優勝メンバーを手放すとは『桃井。』…っ」
『これ以上はタブーや。ワシの口からは、どんだけ言われようと話しはせん。』

わざわざ声を今吉に変えて、あの胡散臭い笑顔まで貼り付けて、湊は桃井を牽制した。
隣に座っていた紺も、ちらりと一瞥しただけで、何も言わなかった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

1年生たちが固まったことで、他のメンバーも何となく2年生、3年生と固まって座っていた。
2年生の机には若草が
3年生の机には紅と桔梗が座っていた。
一番端の机から聞こえていた声に、笠松がちらりと紅を見る。

「…お前は、聞けば答えてくれるのか?」
「何がです?」
「お前らの事を、だ。」
「そういえば、俺たちも聞いたことなかったよな。」

福井が思い出したかのように言うと、桔梗が困ったように眉を寄せた。
なあ、と先を促されると溜息まじりに目を伏せた。
どうやら、キャプテンであった紅にすべてを任せるつもりらしい。

「気に、なります?」
「そりゃ、なるわな」
「ここまであからさまな隠し事は、好きじゃねえ。」

今吉と笠松が肯定をいれると、紅はおもむろに自分の鞄を漁って
DVDを1枚ずつ差し出した。

「なんや、これ?」
「私たちの出ていた、公式試合です。」

そこにいたメンバーは目を見開いた。

「おいおい、どういう事や。うちの桃井があんだけ血眼になって探したのに見つからんかったんやぞ。」
「私たちは当事者ですよ?残っていても、不思議はないと思いますけど。」

紅のいう事も尤もだ。
しかし、なぜ≪幻≫とまで呼ばれる彼女らの過去を、こうも簡単に差し出してきたのか。
笠松が訝し気に紅を見ると、彼女はにこりと笑った。

「私がこれを笠松さんと今吉さんに渡すのは、紺と山吹の口からあの1年の事が語られることは100%ありえないからです。」
「100%…」
「私を含む他の3人は聞かれれば答えますけど、あの2人には、どうしても貴方たちには知られたくない“理由”がある。」

桔梗も頬杖をついて話の行く末を傍観するにとどめているということは、本当なのだろう。

「理由はいくつかありますが、1番は、二人が何よりも今大切にしているのが貴方たちだから。」
「…」
「あの子たちは、自分をコントロールするのがとても上手です。貴方たちに嫌われないために、いくつもの鍵をかけてる。」
「鍵…?」
「紺は元々ああですけど、山吹に関しては別段不思議ではないでしょう?」

にこり。
紅は笑顔で言った。

「今日の事を踏まえて。普段のあの子が、対海常メンバーのために作られた“誰か”である可能性を、考えませんでした?」

笠松の手の中のDVDケースが、みしりと音を立てる。

「勿論、そうじゃないかもしれない。でも、その真相を知っているのは、あの子だけでしょう?今の貴方たちに本当の山吹を知る術はない。」
「……」
「私は、私たちとは別の道を行ったあの子を心配してるんです。自分から離れたバスケに、結果的に戻ってきたあの子を。」
「何が、言いたい。」
「私は、海常を、貴方たち6人を選んだあの子を信じたい。あの子が信じた、貴方たちの事も。」

ふわり。
湯呑に入った茶が、湯気を揺らす。

「できれば、すべてを自分から話すことを待ちたいけど、そうしていたら3年生である先輩たちがバスケ部を出て行く日がどんどん近づいてしまう。あの子には嘘をついたまま、貴方たちとの生活を終えてほしくない。」
「…」
「私はもう、昔の事なんか気にしてないんです。それを踏まえた上で、それを見てほしい。」

笠松も、森山や小堀にも意味は分からなかったが、自分たちの、海常バスケ部の絆が試されているのだという事は分かった。

「それを見た後、あの子たちの事をちゃんと見てあげてください。あの子の、本質を。」

お願いします。
そう頭を下げた紅に、3人は顔を見合わせた。
桐皇の2人も、少し首を傾げたが、それぞれDVDを受け取った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「声、戻ったー?」
『1年生たちの玩具にされて余計戻らんわどうしてくれるんだ。』
「っふ、良いじゃん。お兄さんの声、似あってるよ。」
『うれしくねえわ!!轢くぞ!!!』

会計を終えて、何食わぬ顔で紅は湊に声をかけていた。
それぞれ学校ごとに分かれて散り散りに帰っていく。
誠凛のメンバーの一番後ろから笑顔で手を振る紅に、湊は舌を出して答えた。

「さ、帰ろうか。」
「はい。」

森山の声に、7人でまた歩き出す。
黄瀬に未だ絡まれ、仕方なくまた声を変え変えする湊の姿を、小堀はじっと見つめた。
自分たちにだけ向けてくれているあの笑顔が、作り物かもしれない。
俺たちの為に作った、彼女じゃない何かかもしれない。
完全に、彼女の言葉に翻弄されている自分が、少しいやになった。

いつもと同じように湊を家まで送り届けてから、6人はまたそれぞれの家へ向けて帰路を辿る。

「他の学校とできたのも楽しかったな!」
「ああ、今までやったメンバーとは違っていたしな。」
「次こそ青峰っちギャフンと言わせてやるッス!」

楽しそうに笑う下3人。
湊の家からある程度離れたところで、笠松が足を止めた。

「どうしたんスか?」
「笠松さん?」

少しだけ考える仕草をしてから、彼は言った。

「明日、急遽ミーティングに変更だ。」
「ミーティング?」
「なんでまた?」
「今日の反省会っすか?」
「詳しい話は、明日する。」
「わかりました。」
「じゃあ、湊にはお(れ)か(ら)(連)絡を、」
「湊は、今回はいい。」
「え?」

笠松の声と共に、森山が早川の携帯をホーム画面へ戻す。

「どういう事です?」
「…お前たちに、話がある。いいか、絶対に、湊には知られるな。」
「笠松先輩…?」
「5時から、部室へ集合だ。いいな。」

有無を言わせない主将の声に、他のメンバーは小さく頷いた。
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